醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  234号   聖海(白井一道)

2016-03-13 16:28:12 | 随筆・小説
 
  釜屋、酒蔵開放に参加する

  樽酒の柄杓の酒に春めける  聖海

侘助 ノミちゃん、昨日は釜屋さんの酒蔵開放に行って来たよ。
呑助 釜屋さんとは、何という銘柄の酒を醸している酒蔵でなんす。
侘助 「力士」かな。
呑助 昔という程でもないが、燗の「フグのひれ酒」を寒くなってなってくると、よく飲みましたよ。
侘助 カンの蓋を開けるとお燗された酒が呑めるものだったかな。
呑助 そうですよ。参加者は何人ぐらいあったんですか。去年と同じぐらいだったから、2.000人ぐらいだったんじゃないの。釜屋さんにはどう行くんです。
侘助 東武伊勢崎線に乗って加須の駅で降りるんだ。ネットで朝日バスの時刻表を調べて行ったんだけれどね。出口を間違えちゃってね。四人でタクシーに乗って行ったんだ。
呑助 加須というと、「うどん」がまぁーまぁー知られた所ですよね。
侘助 そうなんだ。それから、「加須市民平和祭」かな。5月3日に菜の花が咲く利根川河川敷で全長100mのジャンボ鯉のぼりが遊泳するらしい。春日部の大凧揚げと同じようなものかな。
呑助 見に行ったことがあるんですか。
侘助 いや、一度もないな。
呑助 じぁー、うどんと新酒ですかね。
侘助、加須も開発が進んでね、北口と南口ができたんだ。元々の旧市内は北口なんだ。バスの発着も北口のみだったから、北口に出たら、バスが30分の前に出てしまっている。私が調べたバス発着場所は南口だった。この北口を南口だとばかり、思い込んでいたものだから、間違いちゃったんだ。
呑助 よく確認しないとね。
侘助 来年行くときは間違いはないと思うけどね。ノミちゃんも来年は一緒に行くかい。
呑助 私は日程が詰まっているからな。私は閑人じゃないから。
侘助 閑人だから、こちらは日程を埋めるのに一苦労だよ。
呑助 羨ましい人だ。ところで酒は旨かったですか。
侘助 四斗樽を乗せた大八車が釜屋さんの庭を一周し、午前10時に人だかりの中で鏡割りをするんだ。蔵人が一人一人に紙コップ配り、樽から柄杓で酒を酌み、紙コップに注いでくれる。大変な人だかりでね、前社長が押さないでくれ、十分にお酒はありますと何回も言っていたよ。
呑助 鏡割りの酒はどうでしたか。
侘助、杉の木の香りがしてね。雰囲気で美味しく飲むお酒かな。
呑助 話に聞くだけで、咽が鳴りますよ。ところで唎酒はどうだったんですか。
侘助 今年は自信があったんだ。五種類の酒を唎くんだけれどね。「雫」という「雫搾り」の酒がやはり何と言っても美味しかったかな。
呑助 雫搾りとは何ですか。
侘助 雫搾りとは、木綿の袋に醪を入れ、斗瓶(とびん)の中に吊るして雫のようにタラタラと落ちてくるような搾り方を言うんだ。圧力を加えない醪の搾り方かな。
呑助 そうした搾り方をした酒が美味しいんですか。
侘助 これぞ、本物の酒とは、これか、というようなお酒かな。とても一升3.000円や4.000円で買えるような酒じゃないんだ。最低でも二万円ぐらい貰わなければ、蔵としては採算が合わないようだ。だからね。たぶん、「雫」はあくまで、お酒の「銘柄」だと思うけどね。それでも、これは雫搾りの酒だという幻想を抱いて頂くと美味しかったよ。お酒は飲む人が何をイメージするかで美味しくもなるし、不味くもなるからなぁー。
呑助 お酒って、そんなものですかね。
侘助 そんなものですよ。イメージが大切なんだ。生酛造りの酒をお燗して飲ましてくれるコーナーがあってね。これがなかなか良かったかな。小さな紙コップに二杯飲まして貰ったよ。若い酒だったけれど、半年も寝かせれば、美味しいお酒になるんじゃないかと思ったよ。生酛造りについて杜氏さんと話したら今年は上手く乳酸が発酵してくれたと嬉しげだった。