醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  239号   聖海(白井一道)

2016-03-19 12:56:26 | 随筆・小説

 東海道53次、50番目の宿 水口宿の酒 美富久酒造のお酒

侘助 滋賀県甲賀、「美冨久酒造」さんのお酒には随分親しんでいるよね。
呑助 中心は「三連星」ですかね。
侘助 「三連星」は美冨久酒造さんの中心的な銘柄商品になってきているようだね。
呑助 「三連星」とは、まず見かけない銘柄のお酒ですね。どんな思いでこのような銘柄を付けたんでしようかね。
侘助 ホームページを開いて見ると次のような言葉に出会ったよ。三連星とは、滋賀県甲賀市にある蔵元「美冨久酒造株式会社」で新しく立ち上げた新ブランドのお酒です。名前の由来は若手30代の社員蔵人3人を中心に醸す〈三〉、種類を純米大吟醸、純米吟醸、純米酒の3種類を中心に出していく〈三〉、各種類の中に無濾過生原酒(通年商品)、特別限定、季節のお酒の3タイプを出していく〈三〉、そして・・・現在創業100周年を目前に過去三代の蔵元に敬意を表しての〈三〉。〈三〉がずっと連なり星のごとく輝けるお酒を目指して名づけましたと、ね。
呑助 「三」という言葉に拘ったネーミングだったんですね。
侘助 美冨久酒造さんのお酒の特徴は何といっても骨格のしっかりしたお酒なのかな。味がのっているよね。
呑助 無濾過生原酒を通年商品にしている所に美冨久酒造さんの主張があるんじゃないでしょうかね。
侘助 そうかもしれないなぁー。「山廃造り」が得意だと自ら主張しているからね。
呑助 「山廃造り」とは、どんな造りをいうんでしたっけ。
侘助 日本酒は大きく二つの造り方があるんだ。一つは「「生酛(きもと)」といわれるものと、もう一つは「速醸酛」と云われるものだ。「生酛」は日本古来の伝統的な造り方なんだ。ポイントは醪の腐敗、腐造を防ぐ乳酸菌の生成を待ってお酒を造る方法と酒母(酛)を造るとき麹を水に解き、その時一緒に乳酸菌を加えてしまう方法なんだ。だからこれを水酛とも言う。この方法は乳酸菌の生成を待つ「生酛造り」の方法に比べて酒母ができる期間を半分くらい短縮できると云われている。この「速醸酛」の方法は1910(明治43)年、醸造試験所(現独立行政法人酒類総合研究所)の江田鎌治郎博士が開発したものなんだ。その後、現在に至るまでこの酒造方法は普及し、大半の酒蔵はこの方法によって酒造りをしている。「山廃造り」は「生酛造り」の方法の一種でね、麹米と蒸米に乳酸菌が生成するのを待つために、麹米と蒸米とを半切り桶で丹念にすりつぶす山卸し作業をするんだ。この山卸し作業をしないで乳酸菌の生成を待つ方法を「山廃造り」と言うんだ。
呑助 「生酛・山廃」の酒が文化の酒だとしたら「速醸」の酒は文明の酒でしようかね。
侘助 日本古来の伝統的な酒造りの経験を継承した酒が「生酛・山廃」の酒だとしたら、化学の力で造られた市販の乳酸菌を用いた酒造りが「速醸酛」の酒だからね。しかし、80年代からの日本酒ブームの中で伝統的な酒造りが復活してきたんだ。その酒の方が切れが良い。味わいが深いことが分かってきたからなんだ。