醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  235号   聖海(白井一道)

2016-03-14 12:37:06 | 随筆・小説

 今日の一句  春雨に煙る古利根流れ行く  聖海

侘助 今年はいつまでも寒いね。
呑助 今年の冬は暖冬だって言っていたけれどね。
侘助 今日も冷たい雨が降っているよ。
呑助 春だと言うのに猫背になってしまいますよ。
侘助 「わがせこが衣春雨ふるごとに野辺のみどりぞ色まさりける」と紀貫之が詠んでいるように我が家の乙女椿のピンクの蕾が春の冷たい雨にもめげずに大きくなってきていますよ。
呑助 そうですか。樹木の命を感じる季節ではあるんですね。
侘助 古利根川の河原には草がびっしり生えてきていのすよ。
呑助 そうですね。我が家の梅はほとんど散ってしまいましたからね。私は梅の花が好きなんですよ。冬が開けるといち早く咲くのが梅でしょ。寒風の中で健気に咲いている梅を見ると心の奥に静かさのようなものが広がるような気がするんですよ。
侘助 確かに梅の花はいいね。実がなると梅酒が作れるしね。
呑助 去年も梅酒を作りましたよ。そういえば梅がまだ入れっぱなしになっていたな。
侘助 梅が大きく膨らんでいるんじゃないの。
呑助 そうなんですよ。一年間ぐらい梅を入れっぱなしにしておくと梅は大きく膨らんでいますよ。
侘助、ノミちゃんは梅酒だけなの。他の果実酒は作っていないの。
呑助 梅酒だけですよ。ワビちゃんは何か、他の果実酒を作ったことがあるんですか。
侘助 家には柚子があるでしょ。だから豊作の年には柚子を焼酎に入れてみたんだけどね。そういえば、この間、柚子酒を飲んでもらったじゃない。
呑助 そうでしたね。柚子の香りがしましたが、梅酒の方が美味しいですね。
侘助 柚子とか、木瓜の実、バラ、かりん、いろいろやったけれども印象に残っている酒はかりんとバラかな。
呑助 バラ酒ですか。雰囲気の出るお酒じゃないですか。
侘助 赤い香りの強いバラがいいね。バラは色と香りだけだから。氷砂糖の代わりにフラクトオリゴ糖を入れてみたんだ。
呑助 赤いバラの香りのする甘い酒ですね。チョット、悪さに誘われる酒ですね。
侘助、若い男だったらね。
呑助 ジジーじゃ、話になりませんか。
侘助 まぁー、そんなところかな。でも気分だけでもね。気持ちはまだまだ青年だからね。
呑助 心と体と言うのは違いますね。私も気持ちはまだまだ若者ですからね。冬山にだって行きたいと思う気持ちはありますよ。
侘助 ノミちゃんはスリムだからね。酒も飲めるし、料理もできるからね。私は炬燵に入って理屈をこねるのが精いっぱいだから。
呑助 この間、正月には旨い酒を飲んだと言っていたじゃないですか。
侘助 山形県山形市の秀鳳さんのお酒のことかな。
呑助 味に厚みがあるのに、軽快にすっとはいってくるんだと言っていたように覚えていますよ。
侘助 そんなことを話したの。
呑助 いつも話だけですよ。旨い酒を飲んだから、今度は一緒にその旨い酒を飲もうと言って飲まして貰ったことなんてないですよ。
侘助 そりゃまずいね。俺の親父がそうだったんだ。自分一人だけで旨い酒や食いものを飲み、食べた話はしても、子供たちに食べさせてあげようという気持ちのない人だったからね。そういう血を俺も引いているのかな。恐ろしいもんだね。秀鳳の純米大吟醸、限定品だったかな。綺麗な酒だった。しっかり味がのっている。口の中でもたつくことがない。味に厚みがあるのに、味は多くない。すっきりしている。6.000円から7.000円する酒だと酒販店のオヤジは言っていたな。そこを4.000円でわけていただいて楽しんだ酒だったかな。