醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   1064号   白井一道

2019-05-15 13:25:32 | 随筆・小説



   春もやや景色ととのふ月と梅    芭蕉 元禄六年


おじいさん、梅が咲き始めましたよ。
朝方はこんなに寒いのに樹木は春が来たことを知っている。人より木は季節が来たことを感じている。自然の叡智かな。
梅はいち早く春が来ていることを教えてくれる花よね。
梅の花を愛でた万葉の歌人の気持ちが分かるような気がするね。
冷たい風の中につぼみを付ける梅の花を見ているととても綺麗だと思うわ。
風の冷たさが身を引き締める。梅の花を愛でるこの寒さがいいのかもしれないな。
万葉の歌人たちは中国人が梅の花を愛でていたから、それにならったように思うけれども、風に震える梅の花を見て万葉の歌人たちは先進国の中国の梅を想像していたのかもしれないわ。
梅の花が咲くと春の到来を実感したのだろうな。その感覚は万葉の歌人たちと同じものだと思うな。
芭蕉も梅の花と寒さに春の喜びを感じたのだと思うわ。
これが春なんだと芭蕉は背筋を伸ばし、梅の花と対面していたのではないかと思う。