醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   1071号   白井一道

2019-05-22 14:07:48 | 随筆・小説



  岐阜の酒  御代桜



侘助 御代桜醸造は明治二十六年の創業だから酒造業界にあって、古い歴史を持つ蔵ではない。立地する地域は岐阜美濃賀もである。中山道五十一次の太田宿は、飛騨、木曽両川の合流点直下の木曽川畔に位置し、中山道の三大難所「木曽の桟、太田の渡し、碓氷峠がなくばよい」と馬子唄にもある急流・太田の渡しのあった宿場で、現在も太田宿の面影を色濃く残す一角に、御代桜醸造はある。中山道御料林のいかだ乗りや街道を行き交う数多くの人々に『天の美禄、
百薬の長』として愛され親しまれてきた清酒、御代櫻。「加茂神社の東南の泉田という所に清冽な清水が湧き出ていた」、「大化の改新より前、鴨の里の県主の一族が水取りの伴に選ばれて、大和朝廷に水を奉っていた」という古伝の史実もみられるなど、水の清冽な岐阜美濃加茂は、酒造に絶好な気候風土のようだ。
呑助 御代桜は岐阜の酒ですか。岐阜の酒と言うと何がありましたかね。
侘助 我々に馴染みの岐阜の酒と言うと「三千盛」だろうな。
呑助 軽快な辛口の酒ですね。このお酒も夏向きのお酒ですね。
侘助 岐阜と言うと日本列島のど真ん中に位置している地域だからね。最も日本的な文化が育まれているところの酒だからね。ある意味、最も日本的なお酒なのかもしれないな。
呑助 最も日本酒らしい日本酒の一つとして御代桜の酒があるということですか。
侘助 御代桜の杜氏さんは次のようなことを述べている。「目指すのは小細工の無いど真ん中のお酒です。 日本酒特有のお米の旨味が感じられ、後口はすっと消えていく。飲んだ後には日本酒を飲んだという充実感を余韻として残すような酒。甘辛酸の味わいが極端なお酒は、最終的には飲み疲れます。一口目のインパクトが大げさでは無くても、腰を据えてじっくりと飲めるような、飲み飽きしない調和のとれたお酒を理想としています。五味五感の「調和」、それこそが御代櫻の個性だと考えます。   お酒造りで一番大切なことは、人の和です。どんなに優秀な杜氏でも一人ではお酒を造ることが出来ません。蔵人一人一人のうまい酒を醸したいという情熱の結集こそが「御代櫻」に息吹を吹き込んでいます。」
呑助 バランスのとれた酒造りを目指しているということなんですかね。
侘助 お酒を楽しむ充実感に満ちたお酒と言うだと思うけどね。
呑助 ある意味、平凡な酒だと見なされてしまう危険性があるということなんですかね。
侘助 長年日本酒に親しんできた通が楽しめるお酒なのかな。
呑助 ワイワイガヤガヤ飲むお酒ではなく、静かにじっくり味わって飲んでこそ堪能できるお酒だということなんですかね。
侘助 そうなんじゃないのかな。酔いの楽しみに満足できるお酒なのかもしれない。
呑助 ふっと気分が楽になった愉しみですかね。
侘助 そうだよ。厳しい現代社会に生きる人は皆ストレスに疲れているでしょ。そうした緊張感から解放される喜びが酔いの楽しみなんだと思う。気の置けない仲間と飲み飽きしないお酒を楽しむ。