醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   1075号   白井一道

2019-05-26 12:23:37 | 随筆・小説



    すずしさを絵にうつしけり嵯峨の竹     芭蕉 元禄七年


 黒田家の浪人、野明氏から俳諧の誘いがあった。京都嵯峨野の野明亭を芭蕉は元禄七年六月十五日に訪ねた。竹藪におおわれた奥に野明亭はあった。竹藪の中の涼しさに芭蕉はほっとした。
「野明さん、竹藪を通ってくる風の涼しさに驚きましたよ」
「嵯峨野は竹藪が多いのです。有難いことに、この竹藪が嵯峨野の夏に涼しさを与えてくれているんですよ」
「嵯峨野の竹は丈が高いですね」
「そうなんです。冬、風が吹くと音を聞いただけで寒くなるような感じがしますよ」
「まるで絵に写したように涼しさが嵯峨の竹にはありますね」
「芭蕉さん、発句を詠んでくれたんですね」
「すずしさを絵にうつしけり嵯峨の竹、ですか」
芭蕉は野明さんとの話をしているうちに発句が湧き出てきた。嵯峨の竹はまるで涼しさを絵に写したような涼しさだった。