すずしさを絵にうつしけり嵯峨の竹 芭蕉 元禄七年
黒田家の浪人、野明氏から俳諧の誘いがあった。京都嵯峨野の野明亭を芭蕉は元禄七年六月十五日に訪ねた。竹藪におおわれた奥に野明亭はあった。竹藪の中の涼しさに芭蕉はほっとした。
「野明さん、竹藪を通ってくる風の涼しさに驚きましたよ」
「嵯峨野は竹藪が多いのです。有難いことに、この竹藪が嵯峨野の夏に涼しさを与えてくれているんですよ」
「嵯峨野の竹は丈が高いですね」
「そうなんです。冬、風が吹くと音を聞いただけで寒くなるような感じがしますよ」
「まるで絵に写したように涼しさが嵯峨の竹にはありますね」
「芭蕉さん、発句を詠んでくれたんですね」
「すずしさを絵にうつしけり嵯峨の竹、ですか」
芭蕉は野明さんとの話をしているうちに発句が湧き出てきた。嵯峨の竹はまるで涼しさを絵に写したような涼しさだった。