醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   1070号   白井一道

2019-05-21 13:19:29 | 随筆・小説



 ほととぎす声横たふや水の上    芭蕉 元禄六年



 ほととぎすの鳴き声が水の上に横たわっている。ほととぎすは飛び去ってしまったがほととぎすの鳴き声が水の上に横たわったまま今も私の耳に聞こえている。ゆったりと音もなく流れている大河の上にほととぎすの鳴き声を偲んでいる。
 夏を告げる鳥、ほととぎすの鳴き声に五月という季節を芭蕉は感じている。水量の増えた川の流れはゆったりとしている。
 芭蕉は蘇東坡の「前赤壁賦」の「白露横江、水光接天」を思い出していた。水蒸気が大河の上に横たわっている。光っている川は天に接している。
 ほととぎすの鳴き声がいつまでも私の心の中で鳴り響いている。ほととぎすの鳴き声が川面の上に横たわっているからだ。
 「夏の夜の臥すかとすれば郭公 鳴く一声に明くるしののめ」と『古今集』の歌人、紀貫之は短夜の夏をほととぎすの鳴き声に詠んだ。紀貫之がほととぎすの鳴き声を愛しんだように芭蕉もまたほととぎすの鳴き声を愛しんだ。

醸楽庵だより   1069号   白井一道

2019-05-20 12:09:42 | 随筆・小説



  法の下の平等とは、法に反する行為があった場合には、誰であっても平等に罰せられるということ



「4月19日、池袋でトヨタ製乗用車プリウスが暴走し、自転車で横断歩道を渡っていた松永真菜さんと、娘の莉子ちゃんを殺害する事件が発生した。
事件を起こした車は左側面をガードパイプに接触した後、速度を上げて約70メートル先の交差点に進入して自転車で横断中の70代男性をはねた。さらにその先の交差点で松永さん親子をはねた。
車は時速100キロを超すスピードで横断歩道に侵入したが、信号機はいずれも赤信号であったと見られている。
トヨタ製自動車プリウスの構造上の問題が原因との可能性が指摘されたが、その後の捜査によって、自動車に異常は確認されていない。
 通常、警察当局は、この種の事件の加害者を逮捕して取り調べを行う。
ところが、今回の事件では加害者が逮捕されておらず、メディアは加害者に敬称をつけて報道した。
加害者は87歳の無職飯塚幸三氏である。
この事件の加害者はいまなお逮捕されていない。
歩行者をはねて殺害する事故が多発しているが、基本的に加害者の運転者が逮捕されている。 
2018年2月に東京都港区白金で発生した自動車による歩行者殺害事件である。
トヨタの高級車「レクサス」を運転していた加害者が道路の路肩でいったん停車し、知人を乗せようとした際に車が急発進して暴走。
 歩道を歩いていた37歳の男性がはねられて死亡した。
車は道路脇の金物店に突っ込んで建物の柱やシャッターなどをめちゃくちゃに壊した。
これも自動車による殺害事件である。
実はこの重大事件でも加害者が逮捕されなかった。
池袋の歩行者殺害事件加害者の飯塚幸三氏の経歴は以下のもの。
東京大学卒
経済産業省工業技術院長
株式会社クボタ副社長
2015年瑞宝重光章受章
元キャリア官僚で、トヨタを所管する経済産業省出身者である。

2018年の白金事件の加害者は石川達紘氏(79歳、事件当時78歳)。
石川氏の経歴は以下のものだ。
中央大学法学部卒
東京地検特捜部長
名古屋高検検事長
2009年瑞宝重光章受章
 こちらも官僚出身で検察高官を務めた人物である。
自動車運転の過失で歩行者を殺害している。
警察は通常、この種の事件の加害者を逮捕して取り調べを行い起訴している。
ところが、池袋事件の飯塚氏、高輪事件の石川氏を逮捕していない。
明らかに不正な対応である。
 重要なことは、このような不正を主権者である国民が容認しないことだ。
主権者の代表者である国会議員は国会で徹底追及するべきだ。
国会会期中であるのに、国会が閉会しているような状況にあること自体がおかしい。
腐敗し切った日本の刑事司法の前近代性が是正されなければ、日本は暗黒社会と呼ぶほかない。」
植草一秀著『知られざる真実』より

醸楽庵だより   1068号   白井一道

2019-05-19 14:37:59 | 随筆・小説



  埋火や壁には客の影法師   芭蕉 元禄五年


 「お母さん、火鉢の炭がまだ赤いよ」。登校前に手をあぶって家を出た子供のころを思い出す。真っ赤に燃えている炭を灰の中に深く埋め込んでくれた母の思い出でもある。
 凍てつく朝の埋火への思いは強い。暖房設備がなかった時代の埋火への情緒は胸に染みる。
 埋火は人と人とを結びつける温もりである。人は人と心を通わせることによって心が温くなる。冬の夜の人情の温もりを芭蕉は表現した。
 芭蕉は一人っきりの冬の夜の温もりを自分の影に発見した喜びを詠んでいるのか、それとも江戸勤番であった曲水を訪ねての吟であるのか、分からないが、冬の夜の人情の温もりを埋火に発見した句なのであろう。それとも芭蕉は一人、自分の写った影法師に向かって熱い俳諧への思いを埋火に詠んでいるのかもしれない。
 私は芭蕉庵で一人、冬の夜を過ごしている芭蕉の姿が瞼に浮かぶ。この句は孤高の俳人の句なのだ。

醸楽庵だより   1067号   白井一道

2019-05-18 13:01:58 | 随筆・小説



 安倍外交は成果をあげたことがあるのだろうか


 安倍総理は日朝首脳会談を無条件で開催する意向を固めたとマスコミは報じている。拉致問題の進展が望めないような話し合いは話合いのための話合いであって、無意味だと述べていた方針を転換し、無条件で会談に臨むと政府筋は明らかにした。近く北朝鮮に伝えるという。求めがあれば、植民地支配を巡る「過去の清算」も並行して話し合う。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が呼び掛けに応じるか、注意深く見極める。新たな対応方針は(1)条件を付けずに金氏と会う(2)02年の日朝平壌宣言に基づき国交正常化を目指す姿勢を強く打ち出す(3)北朝鮮が求めるあらゆる議題に関し、腹を割って話し合う。このようなマスコミ報道がある。なぜ安倍政権は対北朝鮮政策を転換したのか、その理由が分からない。その説明もない。
 この唐突感が否めない。なぜなのか。
「5月13日、1週間で2度目となった北朝鮮による9日のミサイル発射実験は、北朝鮮が韓国や米国と戦争になった場合に、迅速かつ効果的に使える短距離ミサイルの開発に真剣に取り組んでいることを示している、とアナリストらは指摘する。(ロイター/KCNA)」
 北朝鮮がミサイル発射実験をした直後になぜ安倍政権は北朝鮮政府と無条件で会談に応じるというようなことを明らかにしたのか、その理由が分からない。
 北方領土問題が解決する。このようなガスネタに日本国内が湧きたったことが最近あった。北方4島は返って来なくても歯舞・色丹諸島は返ってくるのではないかという期待感があった。しかし何の変化も起きなかった。安倍総理はプーチン大統領と25回も会っている。信頼関係がある。北方領土問題が進展するのではないかと日本国内は湧きたった。がしかし、何の成果もなかった。安倍総理の単なるパフォーマンスに過ぎなかった。しかし安倍総理は何か、外交で成果をあげたかのような空気観だけを国民の間に残したようだ。
 きっと今回も単なる安倍総理のパフォーマンスに過ぎないのであろう。拉致問題が進展することもなく、ただ空騒ぎをしたという空気観だけが残るのではないか。
 金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との会談が実現し、多額な戦後賠償金を要求されるようなことがあったらどうするつもりなのだろう。拉致問題の進展はなく、北朝鮮の元徴用工、元慰安婦からの賠償金要求があった時、どのような対応をするつもりなのだろう。
 小泉純一郎元総理の北朝鮮訪問は電撃的だった。確実な成果があった。小泉純一郎氏の後押しで安倍晋三氏は総理になったが、器が

醸楽庵だより   1066号   白井一道

2019-05-17 12:22:00 | 随筆・小説



   米中貿易戦争に思う 



 米中貿易戦争で中国はアメリカに負けるだろうと日本のマスコミは報じている。本当にそうなのだろうか。
 アメリカは中国からの輸入品に25%の関税をかけると言っている。中国もまたアメリカからの輸入品に対して同じように関税をかける。アメリカ国民は中国からの輸入品を購入する場合今までより25%も高い商品を買わせられる。同じように中国国民もアメリカからの輸入品を購入する場合、今までより25%も高い商品を買わなければならない。
 米中両政府は自国国民に被害を与え合うようなことをなぜするのだろう。中国政府はアメリカで売れなくなった中国商品を製造している会社に補助金を出し、助けるような政策があるようだ。このことをアメリカ政府は批判している。中国企業に打撃を与える目的で行っている中国からの輸入品に関税を課すアメリカ政府の政策を無価値にするものだからであろう。中国政府の産業育成政策に対してアメリカ政府がイチャモンを付ける。これは内政干渉というものなのではないだろうか。
 自由貿易を主張してきたのはアメリカ政府だった。力の強い国は自由貿易を主張する。自由は強い者にとって有利だ。米中貿易においてアメリカ政府が中国の対アメリカ貿易は不公正だと主張した点においてアメリカは敗北している。敗北しているから勝者に対して不平を言う。強いアメリカ政府が言うことなのだろうか。

醸楽庵だより   1064号   白井一道

2019-05-16 15:00:20 | 随筆・小説



   国民政党という衣を脱ぎ捨てた自民党


 田中角栄率いる自民党は国民政党だった。田中角栄が福田赳夫に自民党総裁選挙に勝利した時、テレビの前で手を叩いて喜んだ友人がいた。自分のことであるかのように飛び上がり喜ぶ下町の親父たちが地方の農民たちがいた。田中角栄は突出した戦後日本社会を代表する保守政治家だった。田中総理の出現に日本の国民は熱狂した。あの時のような国民の熱狂を私は知らない。
 給料が毎年、一万円上がった。三月には差額がボーナスと同じぐらい出た。余裕のある庶民の生活が実現した。1970年代から80年代にかけて自民党の政治は国民の生活を豊かにした。会社に勤めていた人々は真面目に働けば幸せな生活が保障された時代だった。
 国民政党だった自民党が変わり始めたのが1980年代の中曽根政権ごろからだった。中曽根総理の思想は庶民に厳しいものだった。しかし田中曽根内閣と言われたようにむき出しの厳しさを日本国民に露わにすることはなかった。
 自民党が大きく変わり始めたのが1990年に入ってからだった。世界も大きく変わった。1990年代になると世界史的出来事としての米ソ冷戦が終わりを告げた。ソ連の崩壊は同時に東ヨーロッパ世界の崩壊だった。日本にあっては左派を代表した日本社会党が凋落した。1990年代に成立した自社さ政権の村山内閣が日本社会党最後の輝きだった。村山内閣崩壊後、日本社会党は少数政党へと転落してしまう。
 日本社会党に代表された日本の左派勢力が日本の政治に大きな影響力を与える力を失った。自民党内にあっては田中角栄の影響を受けた経世会や宏池会に代表されるリベラル派がこれまで自民党内にあって決して主流になることのなかった清和会の小泉純一郎が政権を取ってから日本の政治は大きく変わった。小泉政権には熱狂があった。私の住む街にも小泉首相はやってきた。駅前広場で演説をした。立錐の余地もないほど市民が集まった。これがポプュリズム政治というものかと実感した。この小泉政治の熱狂が自民党政治を変えた。自民党は国民政党という衣を脱ぎ捨てた。「ばらまき」を辞めたのだ。今までのような富の一部を国民に還元することを辞めたのだ。国民に厳しい政治を日本国民自らが求めてしまったのだ。これがポプュリズムというものなのだろう。ポプュリズム政治の結果が2008年末から2009年初にかけての年越し派遣村の建設だった。
 新自由主義というむき出しの資本主義が日本国民に襲い掛かった。巨大な資本の自由を謳歌する新自由主義。大企業が巨大な富を得たならそこから富が庶民に滴り落ちてくるという主張がトリクルダウンだ。しかし富は庶民には滴り落ちてくることはなかった。これからもないだろう。だから最近はトリクルダウンという主張を聞くこともなくなった。安倍総理は世界で最も企業が活動しやすい社会を実現すると述べている。労働法を無視できる社会を実現すると述べている。「働き方改革」という企業が自由に労働者を働かせられる社会を実現すると言っている。
 低賃金、長時間労働が常態化する社会を実現するとニコニコしながら安倍総理は発言する。そんな安倍総理を支持する日本国民がいる。自ら地獄への道を選んでしまう日本国民がいる。
 「おい地獄さ行えぐんだで!」
 二人はデッキの手すりに寄りかかって、蝸牛(かたつむり)が背のびをしたように延びて、海を抱かかえ込んでいる函館はこだての街を見ていた。――漁夫は指元まで吸いつくした煙草たばこを唾つばと一緒に捨てた。巻煙草はおどけたように、色々にひっくりかえって、高い船腹サイドをすれずれに落ちて行った。彼は身体からだ一杯酒臭かった。
 小林多喜二の小説『蟹工船』冒頭の文章である。この小説は1929年に出されたものである。今から90年前の社会が表現されている。資本主義社会の本質が表現された文学である。今、日本国民に資本主義の本質が襲い掛かろうとしている。そのような社会を実現することが安倍総理の狙いのようだ。
 小泉総理には熱狂があったが安倍総理には熱狂がない。あるのは嘘と宣伝のみである。何となく作り上げられた空気観によって支持を得ようとしている。低投票でいいのだ。投票率が低ければ低い方がいい。空気観に騙された国民が投票してさえくれれば、安倍政権は安泰なのだ。今度の参議院選挙に安倍政権は命を懸けていることだろう。消費税10%への増税をマスコミに宣伝させ、参議院選挙を目前にして安倍総理は消費税10%への増税を延期する作戦ではないかと憶測している人々がいる。こうして選挙に勝利する作戦を立てているのかもしれない。

醸楽庵だより   1064号   白井一道

2019-05-15 13:25:32 | 随筆・小説



   春もやや景色ととのふ月と梅    芭蕉 元禄六年


おじいさん、梅が咲き始めましたよ。
朝方はこんなに寒いのに樹木は春が来たことを知っている。人より木は季節が来たことを感じている。自然の叡智かな。
梅はいち早く春が来ていることを教えてくれる花よね。
梅の花を愛でた万葉の歌人の気持ちが分かるような気がするね。
冷たい風の中につぼみを付ける梅の花を見ているととても綺麗だと思うわ。
風の冷たさが身を引き締める。梅の花を愛でるこの寒さがいいのかもしれないな。
万葉の歌人たちは中国人が梅の花を愛でていたから、それにならったように思うけれども、風に震える梅の花を見て万葉の歌人たちは先進国の中国の梅を想像していたのかもしれないわ。
梅の花が咲くと春の到来を実感したのだろうな。その感覚は万葉の歌人たちと同じものだと思うな。
芭蕉も梅の花と寒さに春の喜びを感じたのだと思うわ。
これが春なんだと芭蕉は背筋を伸ばし、梅の花と対面していたのではないかと思う。

醸楽庵だより   1063号   白井一道

2019-05-14 12:40:04 | 随筆・小説


  蒟蒻に今日は売り勝つ若菜哉    芭蕉 元禄六年

 「かぁーちゃん、いいか」、うるさそうにしたかぁーちゃんは竹串に刺した蒟蒻を鍋から一本取り出すと男の子の手に渡すと向こうへ行けと手で子を追い払った。
 鹿沼古峰神社門前町のお土産屋の前の風景を思い出した。栃木県鹿沼は蒟蒻の名産地の一つのようだ。
 蒟蒻が日本に普及したのは江戸元禄時代のようだ。蒟蒻が江戸庶民の食べ物になった。芭蕉も新しい食べ物、蒟蒻が気に入った。江戸庶民に普及した蒟蒻は芭蕉の好物の一つになった。蒟蒻に芭蕉は俳諧を発見した。高野豆腐にはない庶民性を蒟蒻に芭蕉は発見した。
 籠に入れた蒟蒻の振り売りの声を聞きつけた芭蕉は一気に句を詠んだ。今日は七草粥の日だ。
 元禄時代は神事が庶民の生活を規律していた時代だった。

醸楽庵だより  1062号   白井一道

2019-05-13 12:43:27 | 随筆・小説


  炉開きや左官老い行く鬢の霜    芭蕉 元禄五年


 朝の明りに優しさがある。たるんだ蜘蛛の糸につかまっている露が朝日に光っている。日に日に寒さの厳しさが身に沁みてくる。芭蕉は決断した。夏の間、閉じていた囲炉裏を開こう。この前の芭蕉庵の囲炉裏の世話になった左官に頼もう。囲炉裏は芭蕉にとって暖をとる場所であると同時に煮炊きする場所でもあった。
 芭蕉が深川・小名木川の端に庵を結んで十年が過ぎていた。その間、芭蕉は庵をたたみ、他人に渡し、旅に出ることがあった。芭蕉の四十代は旅を棲家とする生活だった。『おくのほそ道』の旅を終え、四九歳になった芭蕉は元禄五年春、江戸深川の芭蕉庵に帰って来ていた。江戸に帰った五回の師匠芭蕉の面倒を見てくれる弟子たちが集まっていた。
 芭蕉庵を初めて開いた年の冬、お世話になった左官に芭蕉はお願いした。左官がやってきた。芭蕉は左官の髪の毛に白いものが混じっているのを見て、自分の年を思った。前に見た時にはなかった額の皺に年を経た年月を感じた。しみじみと芭蕉は十年と言う年月の長さを感じていた。

醸楽庵だより   1061号   白井一道

2019-05-08 15:57:11 | 随筆・小説



    今年の五月一日

 五月一日と言えば、メーデーでしよう。私にとって五月一日はメーデーだ。今年の五月一日、私は入院していた。病院で新聞を買い求め、紙面を開いて驚いた。「令和」一色に塗りつぶされていた。病院の中はひっそりしていた。年号が変わったことについて話題にする人はいなかった。
 新しい時代が始まったと新聞紙面が伝えても現実の病院の中は昨日と同じ日が続いていた。何も変わるものがなかった。新しい時代は何も始まらなかった。昨日となんら変わることのない日常がたんたんと続いていた。新聞とテレビが国民を置いてけぼりにしてはしゃいでいた。このような印象だ。
 マスコミはなぜこのようにはしゃぐのか、その理由が知りたかった。読売新聞は号外を100万部出したという話を聞いた。朝日新聞は20万部発行したようだ。30年間読み続けた朝日新聞を止めて数年になる。政府広報に金を払うことがバカバカしくなったからである。
 新聞やテレビはほぼすべて政府広報のようだ。政府を批判する記事はない。追従の記事に金を払う余裕が私にはない。テレビに出演した朝日新聞記者が発言していた。今時、新聞記事を読む読者がいるのだろうかと記者同士が話し合っているという。
 1945年8月12日に朝日新聞記者たちは日本の敗戦を知っていた。無条件降伏することを知っていた。しかし、8月12日も、13日も、14日も日本の勝利が新聞紙面を飾っていたという。
 朝日新聞記者たちは三日間、嘘を書いていた。このことを恥じて新聞記者を辞めた人がいた。その話を聞き、発言した人が一人いた。「私には妻と子供がいるから辞められない」。