ほととぎす声横たふや水の上 芭蕉 元禄六年
ほととぎすの鳴き声が水の上に横たわっている。ほととぎすは飛び去ってしまったがほととぎすの鳴き声が水の上に横たわったまま今も私の耳に聞こえている。ゆったりと音もなく流れている大河の上にほととぎすの鳴き声を偲んでいる。
夏を告げる鳥、ほととぎすの鳴き声に五月という季節を芭蕉は感じている。水量の増えた川の流れはゆったりとしている。
芭蕉は蘇東坡の「前赤壁賦」の「白露横江、水光接天」を思い出していた。水蒸気が大河の上に横たわっている。光っている川は天に接している。
ほととぎすの鳴き声がいつまでも私の心の中で鳴り響いている。ほととぎすの鳴き声が川面の上に横たわっているからだ。
「夏の夜の臥すかとすれば郭公 鳴く一声に明くるしののめ」と『古今集』の歌人、紀貫之は短夜の夏をほととぎすの鳴き声に詠んだ。紀貫之がほととぎすの鳴き声を愛しんだように芭蕉もまたほととぎすの鳴き声を愛しんだ。