長尾景虎の戯言

読んだり聞いたりして面白かった物語やお噺等についてや感じたこと等を、その折々の気分で口調を変えて語っています。

若竹七海著【プラスマイナスゼロ】

2010-10-13 14:41:35 | 本と雑誌

Photo_6

このお噺書いたひとってのは、心の中に潜む悪意を描くことにかけては、第一級の作家さんつうことで、よっぽど意地悪な女のひとなんだろう。
てゆーか、会ったこともないんで、そこら本当のことは、アタシよく知らないんよね。
でも葉崎市シリーズって、コージーミステリーとかの、アタシ結構気にいってんの。
葉崎市ってのは、神奈川県といってもへんぴもへんぴ、田舎、いやど田舎。
鎌倉、横須賀、藤沢みたいに、おおにぎわいをみせてるとこと違って、交通の便が悪くって時代の波から完全に取り残されてんの。
いまどきコンビニもファミレス、ファーストフード店もない街だって。
コンビニはできて半年で潰れ、駅前のホテルに入ったファミレスも、半年後にチェーン本体が倒産した。
S大佐率いるフライドチキン屋も、道化師Dが盛り上げるハンバーガー屋も、アメリカ産牛肉輸入再開を待ちわびてたどんぶり屋も、あるにはあるが、営業は夏場だけだって、ここまできたらウケルっつうの。
そんな場末の市に、葉崎東高校、葉崎西高校、葉崎山高校って、なんでか三コも高校があんのよ、おかしくねえ。
葉崎東高校はこんなかでもっとも頭のいいひとたちの行く高校で、西高は、葉崎のみならず神奈川中の大ばかもんが寄り集まる学校。
そんでもって、このお噺の中心になんのが葉崎山高校。
葉崎山のてっぺんに建ってて、お噺に登場するだけあって、とってもユニークってゆーか、すんごっく変わった学校なんよ。
葉山ってリゾート地があるけど、真ん中に崎が入っただけで、こうも違うもんかねって思うよ。
五十年前だかに、葉崎ファームという牧場のオーナーが、葉崎山のてっぺんの一区画を葉崎市に寄贈したっての。
寄贈の条件としてオーナーが提示したのが、公共の施設を作ることだって。
それに葉崎ファームでは、牛の乳の出が悪くなるという理由で、車道を作るのを断固拒否したんだとさ。
といって、ケーブルカーやリフト作る金もないし、歩いて登れる程度の山にいかになんでもおおげさじゃないか。
だったら登れる体力のある人間が使う公共施設を作るしかない、ってことは、高校だな、というのが葉崎山高校創設の理由なんだそうだ。
超ノー天気。
葉崎山は高さ二百メートルもない、丘に毛が生えたようなもの。
なだらかな山の大部分は葉崎ファームの敷地になっていて、山道の片側は牛が草をはむ緑の牧草地帯、もう片側は手つかずの森。
そこを登って校舎にたどりつくってわけ。
のどかでうらやましいと思うやつは、毎朝、牛の糞を踏まないように注意しながら、遅刻しないように山道をダッシュで登る身になってみろって。
蛇の攻撃を受ける覚悟もいるってさ。
葉崎高校は、西と東の中間のレベル。
てゆーか、東西があんまり極端すぎるもんだから、どんなレベルでも中間になちゃうんじゃない。
葉崎山高校を志望する生徒の数は少ない。
毎朝クロスカントリー付きカントリーライフを三年間、強要されるわけだからね。
もっと開けた街の学校か、せめて東高に入りたいわって、みんな思うってこと。
お受験も時の運。
よその学校から見事滑り落ちた連中を、二次募集で優しく受けとめてあげるのが、葉崎山高校というわけだ。
このニジボ、応募さえすれば、定員をオーバーしないかぎり、まず受かる。
なので、成績優秀品行方正の天知百合子さまことテンコと、成績最低品行下劣、極悪腕力娘と陰で噂される黒岩有理ことユーリと、成績・運動能力・容姿・身長体重バストヒップはおろか靴のサイズまでが全国標準という、歩く平均値である崎谷美咲が、同じ学校の同級生になってしまうという珍事が勃発する。
どう考えても西高で番張ってそうなユーリが、受験当日の朝、バスの中で痴漢にあって、その勇気あるおっさんを途中の停留所でひきずりおろし、火の出るような説教&拳固をくらわせてる間にまんまと遅刻し、ニジボで山高にやってきた。
だけど、地元中学でぶっちぎりのトップ、実家は超お金持ち、お兄さまもお姉さまも幼稚園から一流の私立校にお通いになってらっしゃるテンコお嬢さまが、なぜ山高なのか。
意外にも神様って平等なのかも。
美女で頭がよくて、弓に詩吟に薙刀をたしなまれ、日舞は名取・・・というテンコ、なぜか、えらく、ものすごく、この世のものとは思えぬほど、運が悪いのだ。
某有名幼稚園のお受験の日の朝、テンコは飼い犬に手を噛まれた。
小学校の受験の日、買ったばかりの外車が高速道路のど真ん中でエンストした。
中学校受験の前日、家族そろって食中毒で入院した。
そして高校受験の日、大雪が降り電車は止まり、お車で受験校の正門前に到着あそばしたテンコさまは、車から降りる瞬間足を滑らせ、車道によろけ出たところを通りがかった車にはねとばされて、右手骨折右肩脱臼全治二ヶ月の大ケガを負った。
実家が金持ちなんだから、寄付金を積めばちっと手頃な私立に入れそうなもんだけど、たまたまケガ治療のため葉崎医大病院に入院中、山高の二次募集を知ったテンコは、これを天の思し召しと受け取ったらしい。
こいつの座右の銘は、「神は愛するものをこそ試練にあわせたもう」とかいうもので、不運な目にあえばあうほど、テンコは「あたしって、神様に愛されてるんだわ」と舞い上がることになっている。
なんせテンコは敬虔なるクリスチャン。
ユーリーよりもある意味テンコのほうがすごいのかも。
ユーリーとテンコとミサキの三人が、なんでつるんでいるかを、誰もがけげんに思っているらしい。
無理もない、規格外のユーリとテンコはいざ知らず、歩く平均値のミサキもときどき不思議に思ってる。
数学の清田先生が三人を見て、「プラスとマイナスとゼロが歩いてら」と言ったそうだけどね。
おかしなことに、ユーリはこれを聞いていきなり清田びいきになった。
自分がプラスだと信じ込んでるらしい。
そんなこんなで、楽しい学園生活のはずが、死体から幽霊まで登場するって、とってもエキセントリックな学園青春ミステリーなんよ・・・。

〈そして、彼女は言った~葉崎山高校の初夏~〉
「で、どうすんのさ、あの死体」
不運のテンコちゃんは、不運の延長線で死体なんかみっけてしまって・・・。

〈青ひげのクリームソーダー~葉崎山高校の夏休み~〉
葉崎西海岸、海開きと同時に華々しくオープンした海の家、八月半ばでもう店じまい。
こんなとこで本格的フランス料理を出すって、むちゃ。
どうでもいいけどさ、ここのオーナー四回も結婚してるって、なんでか奥さんって次々に死んでるだって・・・。

〈悪い予感はよくあたる~葉崎山高校の秋~〉
三年の尾賀章介が少し前からパチンコに凝りだしたって。
駅前に店出してるあれじゃなくて、ふたまたになってて、ゴムひもとかで、小石なんか飛ばすやつ。
両親が離婚したとか、推薦入試に失敗したとか、彼女にふられたとかの噂。
で、尾賀のパチンコがどんどんエスカレートして、あちこちやったら穴だらけにして、車に石飛ばしてとうとう停学になったって。
なのに山高の収穫祭に尾賀はやってきて・・・。

〈クリスマスの幽霊~葉崎山高校の冬~〉
クリスマスに三人の天使が現れたら、悪は改心させられるって。
「クリスマス・カロル」に出てきて、守銭奴のスクルージを改心させるのは、三人の幽霊じゃなかったっけか・・・。

〈たぶん、天使は負けない~葉崎山高校の春~〉
「なんか最近、アタシら死体に縁がねーか?」と、ユーリ。
卒業生を送る会、みんな冷めてるし、今年から予算も大幅カット。
なのにユーリひとりノリノリで、三人してなんかやろうと、勝手にひとコマがめといたって。
十五分もあるんだよ。
でもこれがいけなかったのよ・・・。

〈なれそめは道の上~葉崎山高校、1年前の春~〉
そもそも、不運のテンコと、極悪腕力娘のユーリと、歩く平均値のミサキとの、プラス・マイナス・ゼロが誕生したきっかけは、通学の山道でのことだったとさ・・・。

念のため言っとくけど、神奈川県に葉崎市っての、探したってないよ!
この作家お姉さん(人類の平和のために、こう呼んどくけどが、勝手にこさえちゃったっての。
実際にある街にこんなこと書いてたら、きっと苦情が殺到するよウン。
七海ワールドでのお噺ってことで。
七海っていっても、夜ひとりでオシッコにいけなくなるような、おっかないお噺書いてる、「ヤンキーの兄ちゃん」とか歌ってた人と、上の名前が同じの作家お姉さんとは違うからね。
でも七海同士で、マレーシアに旅行したらしいけどね・・・。


最新の画像もっと見る