『魚舟・獣舟』 上田早夕里 (光文社文庫)
今年の日本SF大賞にノミネートされたせいで読んでみようと思った。
実は、以前に読んだ作品が個人的に合わなくて、新刊が出ても買わない作家にカテゴライズ済みだったんだけど。
表題作は確かに背筋がぞくぞくするようなSF。年間ベスト級というのは嘘ではない。
好みはいろいろあるだろうが、年間ベストアンソロジーに収録されるレベル。
短編集全体的にはホラーな雰囲気がただよっていているが、怪異の設定や正体がSF的(not Scientific!)に考えられており、SFファンのツボをしっかり押さえている。とはいえ、割とカラッと乾いた感じの作風が多い欧米SFに比べ、こちらは情念ドロドロのJホラーチックなSF。そこが好き嫌いの分かれ目になるかもしれない。
表題作の「魚舟・獣舟」にしても、その配役は無いだろうという人間関係が悲劇的なストーリーを構成する。同じ設定でも明るい冒険ファンタジーがかけそうなのだが、これが日本的な情を中心に描かれることによって、直接的ではない怖さを感じる小説になっている。
しかし、個人的に印象が強く残ったのは「小鳥の墓」だ。
他の短編が《異形コレクション》からの採録なのに対し、これは書き下ろし。
しかも、デビュー作『火星ダークバラード』の登場人物の前日譚にあたる。
『火星ダークバラード』ハードカバーで持ってるけど、ぜんぜんストーリーは記憶にないよ(笑)
なんかじめじめして暗い感じだった印象しか残っていない。
というのはさておき、これは80年代半ばのジャパニーズロック、メッセージソングロックな小説だ。
浜田省吾、甲斐バンド、渡辺美里、レベッカ、ハウンドドッグ、エコーズ、パーソンズ……。
そして、尾崎豊!
校舎の窓ガラス壊してまわり、盗んだバイクで路上のルールを蹴散らしていた時代の小説だよ!
大人たちが管理する社会で、もがいて、はみ出して、70年代に終わってしまった学生闘争の残滓の中で、現在の学級崩壊とはまた違う校内暴力が社会問題になっていた頃の少年を描いた小説だよ!
なんで21世紀、平成の世の中で、80年代なのか。90年代生まれの若者は、この空気を知っているのか。
なんてことをつらつらと考えながら、浜田省吾の『反抗期』を口ずさむ帰り道であった。
♪今夜お前は世界を相手に戦い始める ティーンエイジブルー