『機龍警察 自爆条項(上・下)』 月村了衛 (ハヤカワ文庫 JA)
機動ロボットが警察に採用された近未来で繰り広げられる警察内や省庁の縄張り争いと、対テロリスト騒動とくれば、パトレイバーの二番煎じと言われてしまうのも仕方がないが、これはさらに闇が深い。
警察、公務員という枠を超えた機龍パイロットの存在を強く印象付けるのが、サブタイトルにもある“自爆条項”だ。
愛国心だの、使命感だのではなく、プロフェッショナルとしての機龍パイロットの冷徹さと厳しさを示す自爆条項は、さらにその上の秘密の条項をも導き出す。
今回の物語は、機龍パイロット、ライザの過去から立ち上る悪夢だ。ライザのたどってきた道、そして、犯してきた罪の大きさと強い後悔の念が、読んでいるだけで重苦しくのしかかってくる。
ライザは原罪のように巨大な罪を抱え、その原点と対峙する。
死ななくてもいい人々が死に、憎悪をまき散らす。テロリズムの汚さと欺瞞が、〈詩人〉という存在とともに明らかになっていく。
そして、その過去に再び飲み込まれようとするライザを引き留めたものはなんだったのか。
おそらく、自分がライザのような罪を抱えてしまえば、生きていることなどできないだろう。
ミリーとの経験が、最後の戦いで伏線となることもまた、悲しみを倍増させる演出だと思った。
そして、警察という組織の中でつまはじきにされてしまった二人の刑事が報われる瞬間と、さらなる悲劇。
ああ、運命はかくも非情なものか。
機龍の存在が添えものとなってしまうほどの、非情なる物語に押しつぶされそうになる気持ちだ。
冷たく激しい『鉄路』と、暖かく優しい『車窓』の対比。ここから、緑とライザの結びつきが生まれることを望む。そしてそれが、ライザを人間として引き留める絆になることを望む。