『彷徨える艦隊4 巡航戦艦ヴァリアント』 ジャック・キャンベル (ハヤカワ文庫 SF)
今回の敵は、分断されたとはいえ、まだまだ強大なシンディック艦隊。さらに、艦隊内に巣食う反ギアリー派。そして、姿を現しつつある異星人の影。
多数の犠牲を払いながらも、シンディックの大艦隊から逃走することに成功したアライアンス艦隊。しかし、燃料電池も砲弾も尽きかけた艦隊に残された道はただひとつ。
超空間を航行する時間は戦闘ができないという設定を使った時間差攻撃作戦は、この世界設定に慣れ始めた読者にとっても、その手があったかと唸る展開だろう。
そして、これまでに明らかに反ギアリー派だったメンバーが退場し、新たに静かなる反ギアリー派ともいうべき勢力が現れる。彼らはひそかに破壊工作を行い、ギアリーの失脚を目論む。その動機は、自分が替わって権力を握るためではなく、英雄としてのギアリーが秘める独裁政治への懸念だった。
しかしながら、当のギアリーにとってその恐れは見当違いであり、さらに混迷を深めるリオーネ副大統領、デジャーニ艦長との三角関係で精神的には精一杯だった。
さらに、そもそものシンディックとアライアンスとの戦争は異星人が意図的に引き起こしたものであり、さらに戦争を引き延ばすために、ギアリーのアライアンス帰還を阻んでいるという情報まででてきた。
果たして、この物語はどこに着地しようとしているのか。まったく先が読めなくなってきた。
ところで、この世界での宇宙戦闘はなかなか考えられたもので、SF的には割とリアリティがあっておもしろい。
20世紀の現実の戦争では大艦巨砲主義にかわって空母と艦載機が海軍戦力の中心へと変わっていった。しかし、この世界では宇宙戦艦ヤマトですら搭載していた艦載機がほとんど無く、戦艦中心の構成。この不整合は小説内でも説明されていて、なかなか興味深い。
まず第一に、戦闘は相対速度が0.1から0.2光速での遭遇戦となることが多い。これにより、強力な推進機関を持つ艦艇でなければついて来られない。また、もっとも巨大なクラスである戦艦は艦隊戦の主役ではない。装甲が厚いとはいえ、小回りの利かない戦艦は、どちらかというと小型艦艇を守る盾となる。逆に、装甲が薄く、軽量で小回りが利く上に、強大な兵装を持つ巡航戦艦(Battlecruiser)が攻撃の主役となる。
小説中で戦艦には無能な艦長ばかりで、有能な艦長が巡航戦艦に多く、旗艦のドーントレスも巡航戦艦である理由は、ストーリーを進めるうえでのエクスキューズではなく、ちゃんと考え抜かれた設定だったというわけ。
さらに、恒星系を股にかけた戦闘となるため、観測できる敵の状況は数分から数時間前の情報のみという部分も、戦術にバリエーションを与えている。さらに、超空間から出現した時点では、同様の現象により、出てきた艦隊は数時間前であっても敵の情報を観測できるが、迎撃側は敵を観測できるまで数時間かかるということも、考えてみればなるほどという部分だ。
厳密に科学的に考えれば、もっと複雑(というか、そもそも超空間って……)なのだろうが、(ハード過ぎない)コアSFとしてはこの程度で充分なのかもしれないと思った。
ところで、彷徨える艦隊の各巻副題は活躍した艦名じゃなくて、艦名の意味が重要のようだ。
[1] Dauntless 不屈の
[2] Fearless 大胆不敵な
[3] Courageous 勇敢な
[4] Valiant 雄々しい
[5] Relentless 冷酷な
[6] Victorious 勝利の
この巻で、雄々しく戦うアライアンス艦隊をご覧くださいということか。