『外交特例』 ロイス・マクマスター・ビジョルド (創元SF文庫)
マイルズ・ヴォルコシガンシリーズの最新作。
原題の“Diplomatic Immunity”は普通の訳語的には外交特権だけれども、Immunityには免疫という意味もあるらしい。相変わらず、ビジョルドのタイトルの付け方はおもしろいな。
前回の結婚式に続き、マイルズとエカテリンの新婚旅行から話は始まる。もちろん、マイルズの新婚旅行がただで済むわけではなく、『自由軌道』の世界で、ネイスミス時代の副官ソーンとともに、種族間のぶつかり合いをきっかけとして、その裏に隠れた壮大な大事件へと巻き込まれていく。
最初は、バラヤーでの結婚式に参列できなかった面々の顔見世興行的な軽いエピソードかと思ったのだけれど、そんなことはまったくなく、またもやマイルズは死にかけ、バラヤーも死にかけることになる。
のっけから、人工授精時のビデオに早くも親馬鹿なマイルズがほほえましいが、これが実は最後に明らかになる大陰謀に関係無くもない。隠しテーマは遺伝子と子供たち、といったところか。
ささいなきっかけの事件が恐るべき陰謀に、というのは、言ってみればいつものパターンなのだけれど、今回は特にややこしい。偶然のつながりがあらぬ誤解を生み、風が吹けば桶屋が儲かるがごとく連鎖していく。
実は偶然だった、というのはミステリでは悪手なのだけれど、それがかえってこのシリーズっぽいと思えるのはとてもおもしろいとことろだ。
結局、偶然の事件が無ければ、この犯罪計画は犯人の思い通りに運んでしまっただろうということを考えると、まさにバラヤーの危機、マイルズの子供たちの未来は非常に危ういバランスで断崖絶壁にぶら下がった状態だったということ。
ミステリ的な面白さよりも、ここの考えオチな怖さが際立っていた。
そして、今回もエカテリンが素晴らしい。さすが、マイルズの愛した女性である。死へのカウントダウンが始まったマイルズへ向かって、エカテリンがかける言葉が感動的で泣きそうだった。マイルズを愛し、理解すればこその言葉だ。
さて、次はマイルズの子育ての話になるのだろうか。ずいぶん長く続いているシリーズだけれど、この手のスペースオペラで3世代の物語というのも珍しいんじゃないか。『ガンダムAG』Eか!