『華竜の宮』 上田早夕里 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
日本SF大賞候補作になった『魚舟・獣舟』の世界観を長編化した作品。山岸真氏をはじめ、プロパSF関係者が大絶賛の嵐ということで大きな期待と共に読み始めた。
ネットの評判をまとめるならば、小松左京の『日本沈没』、眉村卓の『消滅の光輪』、宮崎駿の『風の谷のナウシカ』などと肩を並べる大作ということだ。
しかし、ひねくれ者な読者としては、そこまでは行ってなかろうと言わざるを得ない。致命的なのは、伏線の解決となるべきエピソードがそっくり抜け落ちているところだ。
この話がシリーズ化されるにしたがい、すべてのピースがそろうのかもしれないが、思わせぶりに振られた話がいくつもクラゲのように大洋を漂っているように思えてものすごく居心地が悪い。
しかし、そんなマイナスポイントがあったとしても、ここ10年の日本SFの中でも屈指の力作であることは間違いが無い。
ホットプルームによる海面上昇と、それを上回るスーパーホットプルームによるプルームの冬。
遺伝子操作によって海洋生活へと適応した人類と、それをさらに進めた深海生活への適応。
人工知性エージェントによるサポートと、その独立と旅立ち。
この物語に登場するSFネタは、必ず一歩上へ、その上へと発想と思索の階段を上り、とめどなく想像の世界を膨らませる。しかし、それも最新の科学的観測、技術の進歩によって裏付けられ、未来予測としての希望と警鐘を表裏一体として読者の目の前に展開していく。
それは科学技術にとどまらず、社会的、政治的分野にもその思索は広げられ、魚船・獣船というファンタジックな存在を中心とした異形の世界にリアリティを与え、迫真の未来世界を描いていく。
まさしく、日本SFが理想とする作品がここにはある。
あまりにべた褒め過ぎて、いったいおまえは何を言っているんだというレベルになってしまったので、卑近なレベルでの感想を述べると……、タイフォンが恰好よすぎてよい。突然変異により緑の渦巻きのような模様(唐草模様かよ!)に覆われた身体を見よ!
また、SFマガジンのインタビューに出ていた「説明なしに科学用語を使っていい」という意識が随所に出ているところも、なかなかの読みどころだろう。
それに通じるのが、陸上民のミドルネームとして使われるNやMM。MMというのは、『神獣聖戦』の狂人=鏡人じゃなくて、おそらくMale/Marriedということだろうが、初対面の人にもジェンダーがわかりやすいように名乗るというのは、なんともSF的。そもそもこの設定だけで、登場人物たちが本当に生物学的に男性なのか、女性なのかが曖昧にされてしまう。やっぱり、「男の娘」とかが増えると、あらかじめ言っといてくれよと思うでしょ。
そんなわけで、おそらく去年取り損ねたSF大賞を、来年あっさりとリベンジしちゃうんじゃなかろうかと思われるほどの力作。(今年はたぶんノミネート期間に間に合っていない)
でもやっぱり、おいてきぼりのネタが多すぎるのが不満。もっと、もっとこの世界のことを知りたいと思ってしまう。
日本SF大賞候補作になった『魚舟・獣舟』の世界観を長編化した作品。山岸真氏をはじめ、プロパSF関係者が大絶賛の嵐ということで大きな期待と共に読み始めた。
ネットの評判をまとめるならば、小松左京の『日本沈没』、眉村卓の『消滅の光輪』、宮崎駿の『風の谷のナウシカ』などと肩を並べる大作ということだ。
しかし、ひねくれ者な読者としては、そこまでは行ってなかろうと言わざるを得ない。致命的なのは、伏線の解決となるべきエピソードがそっくり抜け落ちているところだ。
この話がシリーズ化されるにしたがい、すべてのピースがそろうのかもしれないが、思わせぶりに振られた話がいくつもクラゲのように大洋を漂っているように思えてものすごく居心地が悪い。
しかし、そんなマイナスポイントがあったとしても、ここ10年の日本SFの中でも屈指の力作であることは間違いが無い。
ホットプルームによる海面上昇と、それを上回るスーパーホットプルームによるプルームの冬。
遺伝子操作によって海洋生活へと適応した人類と、それをさらに進めた深海生活への適応。
人工知性エージェントによるサポートと、その独立と旅立ち。
この物語に登場するSFネタは、必ず一歩上へ、その上へと発想と思索の階段を上り、とめどなく想像の世界を膨らませる。しかし、それも最新の科学的観測、技術の進歩によって裏付けられ、未来予測としての希望と警鐘を表裏一体として読者の目の前に展開していく。
それは科学技術にとどまらず、社会的、政治的分野にもその思索は広げられ、魚船・獣船というファンタジックな存在を中心とした異形の世界にリアリティを与え、迫真の未来世界を描いていく。
まさしく、日本SFが理想とする作品がここにはある。
あまりにべた褒め過ぎて、いったいおまえは何を言っているんだというレベルになってしまったので、卑近なレベルでの感想を述べると……、タイフォンが恰好よすぎてよい。突然変異により緑の渦巻きのような模様(唐草模様かよ!)に覆われた身体を見よ!
また、SFマガジンのインタビューに出ていた「説明なしに科学用語を使っていい」という意識が随所に出ているところも、なかなかの読みどころだろう。
それに通じるのが、陸上民のミドルネームとして使われるNやMM。MMというのは、『神獣聖戦』の狂人=鏡人じゃなくて、おそらくMale/Marriedということだろうが、初対面の人にもジェンダーがわかりやすいように名乗るというのは、なんともSF的。そもそもこの設定だけで、登場人物たちが本当に生物学的に男性なのか、女性なのかが曖昧にされてしまう。やっぱり、「男の娘」とかが増えると、あらかじめ言っといてくれよと思うでしょ。
そんなわけで、おそらく去年取り損ねたSF大賞を、来年あっさりとリベンジしちゃうんじゃなかろうかと思われるほどの力作。(今年はたぶんノミネート期間に間に合っていない)
でもやっぱり、おいてきぼりのネタが多すぎるのが不満。もっと、もっとこの世界のことを知りたいと思ってしまう。
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