『彷徨える艦隊 6 巡航戦艦ヴィクトリアス』 ジャック・キャンベル (ハヤカワ文庫 SF)
6巻目。これで一応ひと段落。第一部完。
帰還したアライアンス艦隊のシンディック本星への逆襲と、謎の異星人とのコンタクトが描かれる。そして、ギアリー、レオーネ、デシャーニの三角関係の行方も。
このシリーズの魅力は、大きく3つの要素になるのではないか。宇宙での艦隊戦、戦争を引き延ばした社会設定、そして、ギアリーを巡る三角関係だ。
宇宙での艦隊戦では、解説において、このシリーズにおける宇宙戦闘が第一次世界大戦当時の艦隊戦をモデルにしているのではないかということが紹介されている。ある意味、種明かしになってしまっているが、この独特な艦隊戦は設定的に破綻がなくリーズナブルだし、宇宙戦艦(もしくは宇宙巡航戦艦)という存在を魅せる上ではとても重要だったと思った。やっぱり、質量は超重要ですよ。
社会設定では、シンディックの上層部は徹底した人でなしの悪役として描かれ、その一方で、異星人は、本当は戦いたくない、交渉可能な相手として描かれる。
シンディックの社会制度から考えれば、モデルは共産党独裁政権であるだろうし、そういう意味で少しばかり時代錯誤に思えるステレオタイプな設定に見える。しかし、ギアリーら“軍人”から見れば、アライアンスの“政治家”ですら嫌悪の対象なので、上層部は両方とも敵であり、政治的な主張はないと思ってもいいかもしれない。
謎の異星人の方は、反応がかなり人間的なので、ただの人類である可能性もあるだろう。もしかしたら、著者の理想的な社会は異星人の側にあるのかもしれない。ただ、地球はシンディックを挟んで反対側のアライアンス圏内にあるので、それは考え過ぎか。
ギアリーを巡る三角関係は、落ち着くべきところに落ち着いてハッピーエンド。弟の孫娘(肉体年齢ではギアリーより年上)とも若いができ、ギアリーの人間関係は修復された。そういった意味では、人工冬眠で100年もの間をタイムスリップしたギアリーの成長と、人間関係再構築というのが、このシリーズにおける最大の物語だったのかもしれない。
社会設定、宇宙戦闘、そして、男女の三角関係。物語の側面である三つの要素がそれぞれに面白かった。こういう視野の広さとバランスの良さが、大河ドラマのように長く続く物語を支えているのだろう。
これからも、この先の物語は続くようだが、さて……。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます