サッカー狂映画監督 中村和彦のブログ

電動車椅子サッカーのドキュメンタリー映画「蹴る」が6年半の撮影期間を経て完成。現在、全国で公開中。

知的障がい者サッカーvsろう者サッカーの歴史的な一戦

2015年05月06日 | 障害者サッカー全般

 5月5日こどもの日、知的障がい者サッカー日本代表とろう者サッカー(前半は東日本選抜、後半は日本代表)のエキシビションマッチが行われた。東京都品川区大井ふ頭中央海浜公園スポーツの森陸上競技場において開催された第14回EJDFA(東日本ろう者サッカー協会)デフリーグの一環として対戦が実現したものだ。異なる障害者サッカー間の対戦という、とても意義深いものとなった。
 ルールは通常のサッカーと同じであり、主審がホイッスルとともにフラッグを手にしていることだけが見慣れた風景とは異なる。(個人的には見慣れていますが)。u-20ワールドカップの審判員としても選ばれた国際審判員がフラッグを振った(笛を吹いた)。

 知的障がい者サッカー日本代表は昨年開催された世界大会をベスト4の成績で終え、その後新たなメンバーも加わり平均年齢もかなり若いチームである。また今年9月にエクアドルで開催される『INAS GLOBAL GAMES 2015 ECUADOR』(知的障がい者版パラリンピック)に向けフットサル日本代表が立ち上げられ、大会までの期間はフットサルチームを優先する選手もいるため、この試合には参戦できなかった有力選手もいた。
 迎え撃つろう者サッカーは、前半が東日本選抜チーム、後半は日本代表チームが参戦。そもそも2日間に渡って行われたデフリーグは東日本ろう者サッカー協会主管であり、当初は東日本選抜チームと知的障がい者サッカーチームとの対戦が検討されたが、変則的な形で日本代表チーム同士の対戦も実現することとなった。(個人的にも強く要望した)

 以下、まずは試合の経過をおっていきたい。 
 知的障がい者サッカー日本代表のスターティングメンバーは、GK内堀、ディフェンスは右から吉永、結城、山内、村山。中盤はボランチに上山と野澤、右に丸山、左に瀬川。FWは森山と利根川。一方のろう者サッカー東日本選抜チームは、GK三原、ディフェンスラインは右サイドバック唐橋、センターバックに江島、大石、左に酒井。ボランチに設楽と松本、右MFに林、左に桐生。トップ下に綿貫、1トップに塩田が入った。メンバー中7人が日本代表候補の選手たちである。

 試合開始後早い時間に、ろう者サッカーDFラインのパスミスから知的障がい者サッカーがチャンスを迎えるが決めきれない。その後前半10分を過ぎたあたり、ろう者サッカー左MF桐生が林のパスを受け豪快に蹴り込み先制。桐生は代表では左SBを務めることが多いが、1列前でのびのびとプレーしている印象も受けた。
 知的障がい者サッカーも野澤のスルーパスに森山が裏に抜け出すが、シュートは枠を外れる。ろう者サッカーはボランチの設楽、松本がうまく機能、ボールを奪い取り、右MFの林が果敢に右サイドを切り裂く。そして35分、林のクロスを桐生がシュート、一度はGK内堀が弾き出すものの途中交代出場の杉本が押し込み、ろう者サッカーが2-0とリードを広げた。その後もろう者サッカーが攻め込むもののセンターバックの結城やGK内堀の好守もあり、追加点は許さず前半40分が終了した(試合は40分ハーフでおこなわれた)。
前半を一つの試合としてみるならば、東日本選抜が知的障がい者サッカー日本代表を相手に2対0と勝利した。


 後半開始前には改めて選手が整列し、品川区長の挨拶もあった。品川区は大会の後援として名を連ねている。
青いユニフォームに身を包んだろう者サッカー日本代表チームのメンバーは、GK三原(代表合宿に参加した3名のGKが参加できなかった)。ディフェンスラインは右サイドバック木村、センターバックに細見と江島、左は桐生。ボランチに設楽と松本。2列目は右に中島、左に古島、トップ下には船越が入り、1トップに塩田。11名中6名の選手が東日本選抜からユニフォームを着替え出場した。一方の知的障がい者サッカー日本代表チームのメンバーは前半と変わらず。

(後半は一度リセットされ。0-0からスタートしたものとして記述しています)
 最初にチャンスを作り出したのはろう者サッカー、設楽のスルーパスに中島が裏へと抜け出すがGK内堀がいい飛び出しを見せる。元々シュートへの反応やスローイングには非凡なものを感じさせたが、この試合では再三いい飛び出しも見せていた。
 そして10分、ろう者サッカーは右CKからの流れで船越がファーサイドへ正確なクロスを入れる。フリーとなった松本の狙いすましたヘディングシュートがゴールネットを揺らし、ろう者サッカーが先制点をあげた。
 ろう者サッカーは、中島の積極果敢なプレーなどでチャンスを作り続ける。その後、塩田、設楽、木村に代え、渡辺、河野、吉野が投入される。フィジカルに優った渡辺が前線で起点を作るものの、ボランチの野澤などが体を張ったプレーで追加点を許さなない。野澤選手を初めて見たのは9年前に遡る。その頃の彼は、抜群のテクニックはあるものの気持ちを感じさせるプレーヤーではなかった。しかし昨年の世界大会に向けキャプテンに指名され慣れないセンターバックも経験、感動的なまでに熱い気持ちが伝わってくるプレーヤーへと変貌した。また世界大会ではボランチとして活躍した山内、そして結城のセンターバックコンビも体を張った守備を見せ、小柄な右MF丸山も奮闘した。(丸山選手は、前日に観たCPサッカーの山田友二選手と重なるものがあった)
 その後も細見や江島の安定した守備にも支えられたろう者サッカーが攻め込み、知的障がい者サッカーはチャンスを作り出すことができない。ところが27分、クリアミスが森山の前に転がってきた。森山の思いきりの良いミドルシュートがゴールネットに突き刺さり、知的障がい者サッカーが同点に追いついた。
 しかし37分、ろう者サッカーがFKのチャンスを得る。船越からファーサイドに蹴り込まれたFKを渡辺が頭でゴール前に折り返す。懸命にジャンプした野澤のクリアが無情にも自陣ゴールに吸い込まれた。
試合はそのまま2対1で終了、日本代表同士の歴史的な一戦はろう者サッカーの勝利で幕を閉じた。
尚、知的障がい者サッカーは瀬川、吉永に代わり、鈴木、堀越も出場した。

 試合全体を振り返ると、チームとしてのモチベーションは、2日から行われた合宿の最終日(4日目)に乗り込んできたということもあり、知的障がい者サッカーの方が高かったような気がする。ただフィジカル面では、合宿の疲れもあり思うように動けなかった側面もあった。ろう者サッカー側はデフリーグに別チームの選手としてエキシビションマッチの前後の試合にも出場しなくてはならず、致し方ない面もあった。ただ5月2日~3日の合宿で危機感を覚えた選手たちのモチベーションは高いようにも感じられたし、そのあたりのバラつきも感じられた。
(ろう者サッカーは千葉で2日~3日と日本代表の合宿。4日から大会に参加していた。大会はもちろん真剣勝負だがエンジョイ的な側面もある)

 ろう者サッカーと知的障がいサッカーの日本代表クラスの選手を比較すると、個々の力ではろう者サッカーの方が上である。技術、フィジカルともにである。これはやはり経験値の差が大きい。ろう者サッカーは普通校のサッカー部で揉まれてきた選手が多いが、知的障がい者サッカーは特別支援学校出身者ばかりだからだ。しかし最初に双方のサッカーを見た9年前と比べると差は詰まってきたように感じる。以前は戦術的なポジショニングに難を抱えていたが、小澤監督などの地道な指導もありかなり解消されている。

 ろう者サッカーは耳からの情報がない代わりに常に周りを見て状況を把握しておく必要がある。 知的障がいサッカー側は、ろう者サッカーに触れることによって、周りを観ることの重要性を再認識できたようだ。また知的障がいサッカーは聴こえるのだからさらに声を出さなくてはならない。そういった刺激も受けたようだ。しかし“的確な”コーチングの声は、知的障がい者サッカーにとって大きな課題でもある。

 次回は、純然たる強化試合としての日本代表同士の試合を観たい。大きな大会前の壮行試合なども良いかもしれない。もちろん代表に限らず各地域での試合もどんどん行われるとよいと思う。

これからも是非互いに刺激を受けることで、成長へとつながっていってほしい。


(試合中のプレー時間はおおよその時間です。また選手名などに誤りがあればご指摘ください)



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