サッカー狂映画監督 中村和彦のブログ

電動車椅子サッカーのドキュメンタリー映画「蹴る」が6年半の撮影期間を経て完成。現在、全国で公開中。

ろう者サッカー 主審のフラッグとホイッスル そして手話でのコミュニケーション

2015年05月09日 | ろう者サッカー

 知的障がい者サッカーvsろう者サッカーの『歴史的な』一戦は、宇都宮さんが書いた記事が一時期はYahooニュースのトップ画面に掲載されるなど、多くのかたが知ることとなったようで何よりです。

 ひょっとしたら勘違いされるるかたも多いかという点に関して、少し書き込みます。

 審判はホイッスルとともにフラッグを使用し、ジャッジを聴覚、視覚両面で知らせます。ホイッスルの代わりにフラッグを使用するわけではありません。
 この点は品川区の広報、あるいはバルドラール浦安デフィオを取材した朝日新聞の記事にも誤りがあります。誤りがあった点を責めているわけでもなんでもありません。聴こえない聴こえにくい人々のことに関しては理解するのが難しい点がとても多く、「間違いがない方が珍しい」と言っても過言ではないかと思います。しかし間違い勘違いを通じて理解につながっていけば良いのではないでしょうか。下手に取り上げると間違う恐れがあるからやめておこう、となるのが一番恐ろしい状況だと思います。もちろん私自身も当初はわからないことだらけでした。

 主審のフラッグとホイッスルに関して、ろう者サッカー界の最大のイベントであるデフリンピック(ろう者のオリンピック)を例にとり説明していきます。
 デフリンピックのサッカー競技においても主審はホイッスルを吹き、フラッグを振ります。ホイッスルも必要だからです。選手のなかにはホイッスルの音がある程度聞こえる選手もいます。チームスタッフ、大会関係者、観客のなかにも、聞こえる人(聴者)がいます。そういった人々に向けてホイッスルも必要です。また試合では、主審のフラッグとともに、副審、ボールボーイもフラッグを振ります。出来るだけ多くの地点で視覚的にわかるようにしたほうが伝わりやすいからです。副審、ボールボーイ(ガール)は聴者が務めることが多いように思います。
 要するに音の情報が必要な人も多数いるわけです。

 次に選手の『聞こえ』に関して簡単に説明します。
 デフリンピックの出場資格は聴力レベルが55デシベル以上(裸耳状態=補聴器を使用しない状態)。そしてプレーする際は補聴器を外さなくてはなりません。
 聴覚に何の問題も抱えていない人は0デシベル。55デシベルとは普通の話し言葉の音の大きさくらいでもあります。その話し言葉がかすかに音として聞こえる聴力レベルが55デシベルということになります。羽田空港沖のジャンボジェット機の音は95デシベルくらい。その場でジャンボジェット機の音が線香花火程度に聞こえる人は聴力レベル95デシベルということになります。(もちろん両耳によって違いはありますが、ここではざっくりとした書き方をしています)
 要するにピッチ上の選手たちのなかにも、ホイッスルが(ある程度)聞こえる選手と聞こえない選手がいるわけです。ただ聞こえる聞こえないはデシベルという音の大きさだけではなく、音の高低も影響します。デシベル的には聞こえるけれども高音が聞き取りにくいためホイッスルの音が聞こえないということもあるわけです。もしホイッスルの音が聞こえたほうがプレーに有利になるということであれば問題となるでしょうが、ホイッスルとは多くはプレーを止めるためのもの、1人でも多くの選手に瞬時にわかってもらったほうが良いため、ホイッスル、フラッグ両方があったほうが良いということになります。
 ちなみに日本で聴覚障害の認定を受けられるのは70デシベル以上。それ以下の人たちも日常生活で支障をきたす場面があっても認定は受けられません。世界的には55デシベルは、WHOにもあるように中度の難聴者です。日本は世界基準ではありません。

 先日の試合はろう者サッカー側の声はあまりありませんでしたが、メンバーや試合展開によってはかなり声があります。
 中学や高校のサッカー部で補聴器をつけて聴者とプレーしていた選手も多く、『声を出す』『声を聴いてプレーする』ことに慣れている選手も多数います。補聴器を外すと声による情報はほぼ伝達できなくなりますが、GKやセンターバックなど声でコーチングすることに慣れている選手は身振り手振りとともにかなり声も出します。ことに守備での修正を余儀なくされる試合であればなおさらです。ただ声では伝わらないため、お互いが目と目を合わせることが必要となります。例えばGKが声と身振り手振りでセンターバックに何かを伝えようとします。しかしセンターバックは前を向いているから気がつきません。後ろを向くことが多い中盤の選手がセンターバックに伝え、センターバックがGKの方を振り返るという流れになります。もちろん振り返るとやられてしまいそうな場面では、振り返ることはできません。

 プレーが途切れた時やちょっとした合間には手話でコミュニケーションをとることも出来ますが、プレーしながらは難しいものがあります。『声』の完全なる代用品にはなりえないのです。しかし声が通らないピッチ状況などの場合は、限定された時間の使用にはなりますが、かなり手話でのコミュニケーションが有効となります。離れたポジション同士の意思疎通にも有効です。ベンチと選手間の伝達も然りです。
もちろん双方が手話ができることが大前提となります。
 
 繰り返しになりすが、お互いが目と目を合わせられる状況の時にのみ有効です。

 ちなみにろう者サッカーの選手のなかにも手話ができない、あまりあまりうまくない人もいます。ずっと聞こえる人の学校に通っていたため、ろう者との接点がなかったからです。ろう者サッカーを通じて手話を急速に身に付けていく人も多数います。つまりサッカーが『手話を使用するろう者』と『聴者のなかでしか生きてこなかった難聴者』を結びつけているわけです。サッカーなどの接点がない『聴者のなかでしか生きてこなかった難聴者』は手話とまったく触れずに生きている人も多いということです。聴覚障害者=手話で会話をする人ではまったくありません。

(追記)
その後品川区の広報は訂正されています。担当の方からも丁寧な連絡をいただきました。



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