伊達だより 再会した2人が第二の故郷伊達に移住して 第二の人生を歩む

田舎暮らしの日々とガーデニング 時々ニャンコと

小説を発信中

  
  
  
  

  

ジャコシカ57

2018-07-16 20:23:46 | ジャコシカ・・・小説
見詰め直した志乃の顔は、既に言ったことを忘れたようにあやから外されていた。

 その様子を見てあやは、はっとなって理解した。

 彼女は桐山昇という人物を、あくまで一人の男として見ようとしている。

 そこには彼女の女としての視線が、強く感じられた。

 あやは思わず優美に眼を転じた。

 誰にも洩らしたことはなかったが、優美は桐山と個人的な付き合いがあると、あやは確信してい

た。

 男と女の関係に、自分などよりもはるかに鋭い感覚を持っている志乃が、このことに気付かない

はずはないと思われた。

 あやはブテイック「フローラ」の先行に、今までに感じたことのない不安を感じた。





 
 汽車で帰った日から、高志の気持ちに応えるかのように、荒れた日が続いた。

 暮れも近付いているのに、次第に今日が何日なのかも分からなくなる。

 ラジオが無ければ、完全に日付けを見失っていただろう。

 賑やかな万歳のかけ合いで、初めて大晦日の近付いたことを知る。

 ふと汽車で帰った日から、ずっと何をやっていたのかを思い返してみる。

 網の繕いや延縄(はえなわ)の仕掛作りをしていた気がするが、退屈を感じたことはない。

 互いにまだ充分に知らない二人の男が、離れ小島のような所に終日こもっているのに、これとい

って何かを話し合うこともない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジャコシカ55-56

2018-07-16 07:33:13 | ジャコシカ・・・小説
 一周年記念の会は、あえてパーティの名を付けずに、食事会とした社長の意を受けて、ほんの内

輪だけのものになった。

 それでも店の全員が声をかけられたので、総勢10人になった。

 新橋の本格中華料理店の一室を取った料理は、皆が今までに食べたことのない、豪華で美味なも

のだった。

 店の経営が成功裡で迎えた会だけに、座は賑やかで活気付いた。

 社長は特に上機嫌で、酒がすすむと特長の鳶色の眼が赤味を帯びて光り出し、整った目鼻立ちが

一層外国人風に見えてくる。

 女達はついついその風貌に惹きつけられ、話す内容など頭に入らなくなり、眼ばかりが大きく見

開かれる。

 桐山の経営方針は先刻聞かされている通りなので皆は良く承知している。

 その方針を彼は繰り返す。

 彼の狙いは新しいファッションとヨーロッパ・アンティク家具の組み合わせだ。

 そこに彼は店の個性が出せると力説する。しかしその話しに本当に賛同する者はいない。

 そもそも若い女性に、遠い海の向こうの黴臭い家具の味わいなど分かるはずもないのだ。


 分かるのは社長がそれを売りたいと思っていることだけだ。

 邪魔だとは思っているが、目立っているし、女性物服飾の中では、ちぐはぐな新鮮さを感じさせ

ているのは確かだ。

 つまり「おや」と思わせる、あるいは「はっ」とさせないこともない、と受け取られていた。

 それは店の特徴とか個性という点では、悪くないと見られてもいた。

 優美の考えは当然違っていた。だから桐山に続いた彼女の挨拶には、家具については一言もなかった。

 あやは優美の頭の中では、アンティク家具は余計な異物でしかないことを知っている。

 しかし、さすがに優美はそれらしいことには一切触れず匂わせもしない。

 匂わせはしなかったがブランド「優」は、いずれこの店から異物は追い出すか、呑みこんでしま

うのだという、自信と勢いをあやは感じていた。

 あやは内心そんな彼女の考えに同調し、刺激も受けていた。

 この1年アンティク家具の、売れゆきは不調だった。

 1点50万円、100万円といった高額正札はデスプレイとしての役割しか果していなかった。

別ルートで営業をかけ、店はショウウインドウだとの社長の説明に異論は出なかったが、それにし

ても家具を見に訪れる客は少なかった。

 そんな状態であったから、一周年記念の食事会は、優美の勝利祝いみたいなものでもあった。

 次の1年の食事会には、桐山社長の話しからも店内からも、アンティク家具は消えているかも知

れない。

 あやは真面目に、そんな風に考えていた。

 「どうぞ家具は家具屋さんへ」あるいは「骨董屋さんへ」などと言われているかも知れない。

 そんなことを考えながら挨拶を終えて、少こし紅潮気味の優美の横顔を見ていたら、突然隣の志

乃が言った。

 「男は社長一人ね」

 ふんふんと楽し気に一人頷きながら彼女は、あやを見てウインクをして付け足した。

 「ハーレムだね」

 一瞬あやは言葉の意味を、理解することができなかった。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする