答えてからちょっと千恵を睨んで言った。
「もう賄賂に喰い付いてしまったから、断れないしょ。ただしお伴はわしではなく、高志がいい
でしょう。
今度は足を挫く心配もないし、崖から落ちる危険もない。海さえ良ければいつでもいいよ。
多分あやも行きたがるだろう。釣り場は目の前、家の庭先みたいな所で、根魚でも底ものでも選
りどりみどりだ。
今の時期は良型のカレイも楽しめる」
「わくわくする。子供の頃はあや姉ちゃんと、良く連れて行ってもらったでしょう。
今度あや姉ちゃんが帰って来てから、絶対行きたいと思っていたの。
随分しばらく行っていないもの。
清子姉ちゃん、そう言うことで今度もお伴を命じます。
高志さんもよろしくお願いいたします。
今度はおんぶの心配はありませんから」
「そこが嬉しい。海に落ちたら浮き玉付きロープを投げるだけで済むから楽なものだ。
まかせな、餌も仕掛けも全部用意しておくから、握り飯くらいは持ってきてくれ」
「あいよ。お弁当は清子姉さんと、腕によりをかけて作っていくから」
今度の日曜日は三日後だ。
高志は同じ海の上で、見なれ扱いなれた魚を獲るだけなのに、まるで違う気分になっているのに、
我ながら驚いていた。
その上、三日後が急に待ち遠しく思えた。
皆の気持ちを汲んだかのように、その日の海は風も波もなく、絶好の釣り日和となった。