伊達だより 再会した2人が第二の故郷伊達に移住して 第二の人生を歩む

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ジャコシカ161

2020-11-06 12:27:31 | ジャコシカ・・・小説

高志は駆けるようにして、畑に向かった。

 

駆けながら懐中電灯を持ってくるべきだったかと思った。

 

 

鉄さんは海を見下ろす畑の際の、切株に腰を下ろしていた。

 

動かないその姿を見た時、高志は思わず足が止まった。呼吸を整えてからかけた声が、なんだか

 

遠くに呼びかける声になって、耳の奥で聞こえた。

 

 返事がないので思わず、海の上のいつもの漁師声になって再び呼びかけた。

 

 「鉄さん終わりましたか。大分暗くなりました」

 

 やはり返事がない。

 

 「鉄さん大丈夫ですか、具合が悪いのですか」

 

 さすがに声が緊張していた。

 

 その時になって鉄さんは、ようやく顔を向けて高志を見た。

 

 明らかにその眼は今の今まで、どこか遠くをさ迷っていたものだった。

 

 彼は最初ぼんやりと高志を見ていたが、急に「ああ」と言って笑った。

 

 薄闇に浮かんだ、引き攣ったその笑いに、高志は思わず怯(ひる)んだ。

 

 高志が初めて見る、無残な嗤(わら)いだった。

 

 「大丈夫、具合はなんともない。唯ちょっと目眩がしたので休んでいた。もう大丈夫だ。いゃあ

 

すっかり陽が落ちてしまった」

 

 高志は鉄さんの様子を窺いながら、傍の御用篭を見た。

 

 中には未だ菜の一株も入っていなかった。

 


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