「それから一株の全部を摘んじゃ駄目だからね。いただくのは周りだけにして、真中のは残して
おくの」
いつの間にか知恵は山菜採りの先生になっている。高志も良い生徒になって、教わった通りに摘
んで、彼女の確認を貰っている。
そんな二人を見て、あやが楽しそうに声をかける。
「優等生くん、護衛の方も忘れないでね」
高志は顔を上げずに腰の鈴を外し、頭の上に高く掲げて振った。
鉄さんの指示したポイントは、さすがに外れなかった。四人は僅かの時間で、充分な量を採るこ
とができた。
「少こしは蕨や蕗をとっていかなくちゃあね」
清子がリックの半分を占めた、行者ニンニクを見ながら言った。
そちらの方は来る途中の入江に近い所に目星を付けておいたので、一行は一息入れることにした。
開けた海を眺める場所で、南部煎餅と花林糖をパリパリとかじる。
「美味しい」
皆が一様に同じ言葉を発する。
後は暫くは賑やかな音ばかりだ。
水筒の水を飲んではまたパリパリ。
「別世界だわね」
あやが溜息まじりにつぶやいた。
「私ここが大好きだわ」
間を置いて千恵がめずらしく静かに言った。