あやは腰も浮かせずに見上げて、唇の縁で微笑を返した。
「変わりないわね。安心したわ」
「優美さんも」
言いながらあやは肘付きのたっぷりとした革張りシートに体を沈める、優美の動きを追っていた。
「私は変わったわよ」
優美はそんなあやの視線をちょっと睨んで言った。
「三十路も半ばを過ぎた女の変わりは速いものよ。特に色々あったから、多分一か月が一年分は
いくと思うわ。二年分かな、気分としてはもう四十路ね」
優美はやって来た若いウェイトレスにコーヒーをオーダーしてから、その後ろ姿を追いながら表
情を変えずに言った。
言葉とは裏腹な、張りのある声と言葉を吐くルージュの唇を、あやは少こし気圧される気分で見
ていた。
「貴方には謝らなければならないわね。結局私の揉めごとに貴方を巻きこんでしまった。
計画に引きこんで、さんざん苦労をさせて仕事とは関係のないことで、貴方を追いこんでしまっ
た。本当に申し訳ないと思っています。
それで、もう私とはうんざりだとは思うけれど、もう一度組めないかと思って」
あやは残りのコーヒーをすすりながら、優美の謝罪の気持ちなどまるで見えない、少こし吊り上
がった切れ長の眼を見た。
今日の化粧はあの頃よりもさらにきつい。
それが彼女のアクセントの強い顔を一層際立たせる。
だが、悪くはない。