私の人生にはいつでも、ブテイック「フローラ」のあの緊張と高揚感が必要だし、それなしでは
生きている気がしない。
その点で私達は同類だと思う。
だからあやさん、私と手を組みなさい」
「優美さんがこんなに雄弁だとは知らなかったわ。いつも怒鳴ることと命令することしかしない
人だと思っていたのに」
「私だって、時にはお利巧さんになれるのよ」
「新しい発見です。もしかしたら第四の扉かも」
「第四の扉、何それ」
「いつか私の入江の家に来て下さい。そこから海を見ると入口に大きな扉があるように見えるの
です」
私にとってそこが第一の扉、そこから第二、第三と続いて、今度が第四かも知れないと思ったの」
「つまり、提携は成立ね」
「緊張と高揚のために」
「そして、貴方の第四の扉のために」
二人は今日初めて、心からの笑顔で見詰め合った。
十七
優美と会って札幌から戻ったあやの眼に、入江は出掛ける前とは違って見えた。
気がかりだった鉄五郎のことさえ、忘れかけていたことに気付かされた。
体の中の隅々まで、新しい血が巡り始め、その血が入江の海を前に、ざわざわと波立ち始めた。