受け取った高志は袋の中に顔を近付け、香ばしい匂いを吸いこみ眼を細めて言った。
「で、その心は」
「千恵、お願いするならまず鉄さんでしょう」
清子がたしなめるように言った。
慌てて千恵が鉄さんに向き直った。
「やあ千恵ちゃん、足はもう大丈夫かい」
鉄さんは滅多に見せない笑顔で言った。
「その折はご迷惑をおかけしました。おかげ様ですっかり治りました」
千恵は急に改まって、ペコリと頭を下げた。
高志は先刻あいさつは済んでいる。
「今日は二人そろって、何か用かな」
「それなのよ小父さん、これ食べませんか」
千恵は高志に差し出していた、アンパンの紙袋を鉄五郎に向けた。
「嬉しいね。これは鼻に効くね」
先ほどの会話を受けた鉄さんは、少こしとぼけ顔で言って、アンパンを一つつまみ出した。
続いて高志も手を伸ばす。
高志と鉄さんがアンパンを頬張ったのを見届けてから、千恵が明るく大きな声で言った。
「釣りに連れて行って下さい。清子姉さんと二人、今度の日曜日にお願いします」
鉄さんの顔がくしゃりと崩れた。
「いいよ」