あやは飾り気のない白い封筒の差し出し人の名から、直ぐには眼を離すことができなかった。
「間違いありませんね」
紺の事務服姿の清子が、いつもの落ち着いた微笑で見ている。
漁協事務所の地味な制服姿の彼女は、自分よりも幾つか年上に見える。
「もっと明るい色がいいのに」
あやは最初に見た時の印象が、会うたびに強まっていくのを感じる。
大きく頷いて礼を言ったあやは、漁協事務所気付の自分宛の手紙を受け取り、歩きながら読んだ。
文面は簡略なものだった。
「次の週始めに札幌に行きます。そちらで開店の計画のためです。都合の付く日に是非会いたい
と思います」
連絡場所としてホテル名が記されている。
あやは思わず足を止めて顔を上げ、護岸の先に広がる海を見た。
暫くはそのままの姿勢で動かなかった。
よほどぼんやりと佇んでいたのだろう、高志が近付いてきて声をかけた。
「どうした」
その眼があやの顔と、両手で開かれたままの手紙を見た。
「うん、ちょっとね」
彼女は意識を引き戻すように笑って高志を見た。
「突然だったので驚いていたところ」
そう言って開いたままの手紙を、高志に差し出した。
「見ていいのかい」