映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

ウインド・リバー(2017年)

2018-09-13 | 【う】



 以下、公式HPよりストーリーのコピペです(すんごい長いし分かりにくいのでちょっと編集しています)。

=====ここから。

 なぜ、この土地(ウインド・リバー)では少女ばかりが殺されるのかーー

 アメリカ中西部・ワイオミング州のネイティブアメリカンの保留地ウインド・リバー。その深い雪に閉ざされた山岳地帯で、ネイティブアメリカンの少女の死体が見つかった。第一発見者となった野生生物局の白人ハンター、コリー・ランバート(ジェレミー・レナー)は、血を吐いた状態で凍りついたその少女が、自らの娘エミリーの親友であるナタリー(ケルシー・アスビル)だと知って胸を締めつけられる。

 コリーは、部族警察長ベン(グラハム・グリーン)とともにFBIの到着を待つが、視界不良の猛吹雪に見舞われ、予定より大幅に遅れてやってきたのは新米の女性捜査官ジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)ひとりだけだった。

 死体発見現場に案内されたジェーンは、あまりにも不可解な状況に驚く。現場から5キロ圏内には民家がひとつもなく、ナタリーはなぜか薄着で裸足だった。前夜の気温は約マイナス30度。肺が凍って破裂するほどの極限の冷気を吸い込みながら、なぜナタリーは雪原を走って息絶えたのかーー

 監察医の検死結果により、生前のナタリーが何者かから性的暴行を受けていたことが判明する。彼女が犯人からの逃走中に死亡したことは明白だが、直接的な死因はあくまで肺出血であり、他殺と認定できないことから、FBIの専門チームを呼ぶことができなくなったジェーンは、ウインド・リバーの事情に精通したコリーに捜査への協力を求める

 捜査を進めるコリーとジェーンは、鬱蒼とした森の中で白人男性の遺体を発見。彼の身元はナタリーの恋人で保留地近くの石油採掘場で働くマット・レイバーン(ジョン・バーンサル)だった。

 はたして事件当夜、人里離れた石油採掘場のトレーラーハウスで何が起こったのか。ついに明らかになる衝撃の真実とは……。

=====ここまで。

 実は、コリーの娘も、過去にナタリーと同じような目に遭って亡くなっています。

 
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 見たい、見たい、と思っていながら、なかなか見に行けずにいたんだけれど、やっとこさ行ってまいりました。見てからもう3週間経つんですけど、ゼンゼン、インパクトも記憶も薄れない、衝撃的な作品でした。


◆先住民迫害の理不尽

 あまりに寒いと、呼吸によって肺に入った外気で肺が凍ってしまうとは、、、。それで、呼吸が出来なくなり、肺出血を起こしてしまうだなんて、聞いているだけで息苦しくなってくる、、、。

 そんなことが起きるような土地、ワイオミング州のウインド・リバーと呼ばれる土地は、先住民族の「保留地」。そういう土地があることは一応知っていたけれども、それが、17世紀から行われた国策である先住民族の強制移住によるものだったとは、恥ずかしながら本作を見て初めて知った次第。

 映画のパンフによると、「1830年にインディアン強制移住法が制定されると、ミシシッピ川以東に居住した部族は西武の代替地への移動を強要された。「涙の旅路」として知られるチェロキー族のケースでは、凡そ1,900キロの移動が強いられた。1840年代半ばまでに約10万人が移動させられたが、その行程は極めて過酷で多くのものが途上で落命している」とある。

 また、インディアン保留地とは、「ネイティブアメリカン部族の居住のために指定された地区。合衆国連邦政府から部族に信託された土地であり、一部を除いて州の権限が及ばない。保留地はミシシッピ川以西に集中しており、2015年時点で326存在する」とある。また、ネイティブアメリカンの約8割は保留地外に住んでいるらしい。

 そんな保留地では、「アルコール依存や薬物依存は保留地における深刻な問題」で、それらは、長年にわたりネイティブアメリカンの伝統・文化を徹底的に否定した“同化政策に基づく教育”が行われたことにより、自文化を否定され、ネイティブアメリカンのアイデンティティが奪われたことに遠因があるということのようだ。

 これらを読んで、私は、昨年見た『サーミの血』を思い起こさずにはいられなかった。あの映画に描かれていたサーミ人(作中では“ラップ人”とも呼ばれていた)が置かれていたのも似た状況だった。スウェーデン政府は、同化政策によって徹底的にサーミ人たちのアイデンティティを破壊する一方で、サーミ人を隔離し、サーミ人の世界に閉じ込めた。本作で、ネイティブアメリカンを保留地に閉じ込めているのと同じ。サーミ人も多くはスウェーデン社会に溶け込んで生活しているらしいが、一部ではサーミの習慣を守って昔ながらの生活をしている人もいる。

 日本でも、アイヌ等に対する差別が、ごくたまにメディアで取り上げられることがあるが、それらの話を聞くにつけ、どうして先住民が、後から来た入植者達に迫害される目に遭うのか、非常に疑問に思うのである。ジャレド・ダイアモンド著『銃・病原菌・鉄』を大昔に読んだときは、多少なりとも私が昔から感じていた疑問が解消されるかと思ったけれども、あの本はあまりにも多岐にわたっていて、単純に「ああ、なるほど」などとなるわけは当然なく、ただ、そのタイトルにもあるとおり、武器、病気に対する抵抗力、技術、こそが入植民たちを有利にしたということらしい、というぼんやりした輪郭が見えた、という程度で終わってしまった。

 あの本を読んで以降は、何となく分かった気になったけれども、それでも本作のような話を見聞きすると、あまりの理不尽さに、やはり疑問が頭をもたげるのである。ただ一つだけ確信するのは、入植者達は、自分たちの方が先住民達よりも“優れて”いて、“文明的”であって、“進んだ”人間であると勝手に思い込み、その間違った思い上がりが、迫害を引き起こしたのだろう、ということ。それは、つい先日、南米かどこかで未確認の先住民族が発見されたらしい、というニュースを見たときにも感じた。現代文明から取り残された人たち、というニュアンスで報じるニュースは、まさに、入植者達の目線そのものではないだろうか。

 本作のラストには、こんな字幕が出る。「ネイティブアメリカン女性の失踪者に関する統計調査は存在しない。失踪者の数は不明のままである」、、、この事実について、監督・脚本のテイラー・シェリダンは「こうした統計を取るのは国の仕事だけれど、国は自治権のある保留地については権限がない。だから統計を取る人が誰もいない」と語っている。本作は、事実に基づいたフィクションだが、非業の死を遂げた人たちが闇から闇に葬られている現実が、あのアメリカで存在している、という事実に、私は激しい衝撃を受けて劇場を後にしたのであった、、、。

 日本でだって、恐らく、闇に葬られている悲惨な事実はたくさんあるだろうけれども、もしかすると、もっと衝撃的な現実が人々の知らないところで蠢いているのかも知れないけれども、本作で描かれていることも、私には十分衝撃的だった。


◆映画として素晴らしいが、、、

 映画自体は、全体に緊張感が途切れることなく、といって奇をてらったエグいシーンがあるでもなく、非常にまっとうに、真摯に作られた逸品である。

 なぜナタリーが死んでしまったか、という謎解きを縦糸に、白人であるコリーの物語を横糸にして、ネイティブアメリカンの置かれた現状や様々な問題を浮き彫りにしていくという秀逸な脚本。アメリカの警察制度が独特で、保留地内の警察、州の警察、さらには連邦警察(FBI)と、複雑過ぎて、見ていてメンドクサイ。合衆国ならではのメンドクサさなんだろうな、、、。

 そんな中で、若いFBI捜査官ジェーンは、最初こそ頼りなげだったが、実に真摯かつ勇敢に捜査に当たり、見ていて頼もしい。ジェーンを演じたエリザベス・オルセンが、いわゆる“クール・ビューティ”でハマっていた。彼女の身体を張った、というより、命を懸けた捜査活動により、少なくともナタリーの死についての真実は、きちんと解明され悪事が暴かれた。

 コリー自身は白人で、野生生物局のハンターという、言ってみれば合衆国政府の人間。ただし、彼はネイティブアメリカンの女性と結婚し、娘をもうけたが、その娘は非業の死を遂げているという過去がある。だから、保留地に住んでいるとはいえ、保留地の外の人間であり、しかし、保留地の中の人間の気持ちも分かる、という非常に複雑な立ち位置。こういう人間を主役に据えたのが、本作のキモだろう。

 コリーは、ハンターとしての腕も素晴らしく、そのピカイチの腕前は、終盤緊迫したシーンでいかんなく発揮される。この辺の展開も上手いな~、と唸らされる。

 そして、ナタリーが死んだ原因の主犯ともいえる白人の男をコリーが冷徹に追い詰め、鉄槌を下す場面は、本来ならナタリーの仇を討ったのだから清清しそうなものだが、到底そんな気持ちにはなれない。コリーのやりきれない怒りが見ている者にひしひしと伝わってきていたたまれないのだ。

 ナタリーの父親マーティン(ギル・バーミンガム)が、娘を悼むために顔にペインティングをして庭に座り込み、コリーと哀しい会話を交わすシーンは、本作の白眉といっても良いと思う。ただただ胸苦しく、せつない。

 素晴らしい作品だけれども、鑑賞後感はむしろ最悪かも知れない。

 シェリダン監督は、脚本を担当した『ボーダーライン』も好評の様だが、監督としては、本作がデビュー作となるとのこと。『最後の追跡』と併せて、現代アメリカのフロンティアを描く3部作とのことなので、他の作品も見てみようと思った次第。









DVDでもう一度見るだろうな、、、。




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