作品情報⇒https://www.allcinema.net/cinema/90421
ある雨の降る夜、浜辺の小さなホテルにやってきたピエール(ジェラール・フィリップ)。彼は、ホテルの女主人に、自分は学生で精神を病んで静養に来たと言う。そんな彼を、女主人の父親と思しき車いすの老人は凝視している。
彼は食事もろくに取らないが、新聞記事を気にし、また、ある女性歌手のレコードをかけると過剰な反応を示した。ホテルの従業員であるマルテ(マドレーヌ・ロビンソン)がそんなピエールを気遣う。
ホテルでは15歳の戦争孤児の少年が雑用係として雇われており、ピエールは、その少年がホテルの客の中年女と関係をもっているのを知る。
ピエールはその孤児の少年にかつての自分を見出す。ピエール自身も孤児で、かつてこのホテルで働いた経験があるのだった……。
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ジェラール・フィリップの出演作はいくつか見ているが、本作はタイトルも知らなかったのだけれど、TSUTAYAさんがオススメしてきてくれたので借りてみた次第。
とにかく、終始雨が降っている。このホテルのある地域は雨が多い、ということらしいが、それにしても雨が降っていない時がない。四六時中降っていて、陰鬱そのもの。ここまで雨ばかりだと、気分的にもかなり落ち込みそうな気がする。
そして、なぜかみんな外を歩くときに傘を差さないのね。ジェラール・フィリップ演ずるピエールもずぶ濡れであちこち歩いている。びしょ濡れのまま屋内に入って、着衣がびしょびしょのまま椅子に座ったりする。映画の内容以前に、そういうところが異様に気になってしまう。だって、あんな服着て部屋の中で普通に過ごすのってあり得なくない??ってね。
割と序盤で、ピエールが女性歌手を殺したことが推測できる展開になっており、そういう意味では、サスペンス性は薄い。けれども、どうして彼がそんな罪を犯したのか、、、が徐々に明らかになって行くという構成になっていて、なかなか見せてくれる。
ピエールがマルテと小屋で身を寄せ合って語り合うシーンがあって、ラブシーンが展開されるのかと思いきや、そうではなく、ピエールの鬱鬱とした心境が語られる。マルテに触れて、人肌のぬくもりを感じ、一瞬の安らぎを覚えるピエールの表情が何とも切ない。
本作は、冒頭に「この映画は孤児を差別する意図ではない」といった趣旨のテロップが出るのだが、要するに、ピエールを始めとした戦争孤児たちの置かれた厳しさを静かに告発する映画なのだろう。制作年からいって、まだ戦争の影響が色濃かった時代だろうし、戦争孤児は社会問題でもあったと思われる。
ピエールもかつてはこの陰鬱な場所でこき使われていたところ、女性歌手に拾われ、パリで燕としていい様に扱われていたというわけね。具体的に何があったのかは描かれていないが、堪りかねて女性歌手を手にかけてしまった、ということだろう。まあ、殺したくなる気持ちは分かる気がする。とはいえ、辛い思い出しかないこのホテルに、彼はどうしてやってきたのか、、、。ほかに行く所がなかったとはいえ、なぜこの場所、、、。
終盤、孤児の少年に「自分も昔ここで働いていた……」と身の上話をして、少年を勇気づけようとするピエールだが、少年にはほとんど響いていなさそうだったのが、また哀しい。天涯孤独で誰からも尊重されないでいると、手を差し延べてくれようとする人に対してさえ不信感しか持てないのだよね。
驚いたのはラストシーンで、“美しき浜辺”を、少年と関係を持っていた中年女夫婦が傘を差して歩いており立ち止まる。すると、カメラが一気に引き始め、カットなしで砂浜に跡もつかずに遠景まで引きの映像となる。今ならドローンで出来るだろうが、当時、一体どうやって撮影したのだろうか、、、と何度か見直してしまったけれど、当然、分からない。ネットで検索してみたけど、それに関する記述には行き当らなかった。
本作は、ジェラール・フィリップ自らが資金集めまでしたという、彼の思い入れのある作品とのこと。彼の憂を帯びた表情はさすがの一言で、美しさがより哀切を増す。
ストーリー的にはシンプルだけに、今リメイクしたら、誰が監督しても、誰が主演であっても、この雰囲気は絶対に出せないだろうな、、、と思う次第。
舞台はフランスのどの地方なのでしょうか?
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