音楽の天才が、世のため人のために才能を使い切る姿を描いた映画『シンペイ 歌こそすべて』
2025.02.02(liverty web)
<picture></picture>
全国公開中
《本記事のポイント》
- 人々の慰めや喜びとなるために作曲し続ける
- 創作の原点にある"支えられたことへの恩返し"
- 激動の時代に、人々と子供たちの魂を守り育む
本作は「ゴンドラの唄」「東京音頭」「シャボン玉」「てるてる坊主」など、童謡、歌謡曲、音頭、民謡などさまざまなジャンルの約2000曲を残した作曲家・中山晋平の生涯を描いた伝記ドラマ。
信州から上京し、東京音楽学校(現・東京藝術大学音楽学部)に入学した晋平。落第・留年の危機に陥るが、教師の幸田先生に演奏以外の才能を見いだされ、どうにか卒業する。
やがて演出家・島村抱月から「芸術は大衆の支持を離れてはならない」という教えを受けた晋平は、作曲家として「カチューシャの歌」「船頭小唄」といった流行歌から、「シャボン玉」「てるてる坊主」といった童謡まで、さまざまなジャンルの曲を手がけるようになる。
若手歌舞伎俳優の中村橋之助が18歳から65歳までの中山晋平を演じる。監督は『ハチ公物語』の神山征二郎。
人々の慰めや喜びとなるために作曲し続ける
本作の特徴は「シャボン玉」「てるてる坊主」といった、今も歌い継がれる名曲の数々を作曲した中山晋平の、人々への深い愛の心が描かれている点である。
晋平は常に"誰かの幸せのために"作曲する。代表作の一つ「シャボン玉」では、作詞者である野口雨情の最初の子供が生後1週間で亡くなったことを知り、天真爛漫さの中に無常観が漂う、心に染みる楽曲を生み出した。
シャボン玉とは、天に召される幼児の象徴である。そして、子供が迷うことなく、天国へと導かれていくことを願う、痛切で悲しみに満ちた両親の愛の心がそこにある。
晋平は、その心を、口ずさみやすいシンプルなメロディーへと落とし込んだ。そこには、親の悲しみが癒されるようにと願う、彼の透明な祈りがあった。
誰しも口ずさみやすい晋平の楽曲の特徴について音楽評論家の菊池清麿氏は次のように指摘する。
「中山晋平は何百年という俗謡の哀調・退嬰的音律によって育まれてきた日本人の原始的郷愁を理解していた。
そのような中山晋平には日本人の体質にしみついている「ヨナ抜き音階」(七音音階から「ファ」の第四音と「シ」の第七音を除いた五音音階で構成)を用いた独特の作曲法があった。
そして、昭和流行歌の時代を迎えると、中山晋平は民謡のリズムと囃子言詞を用いた《波浮の港》(野口雨情・作詞) で新民謡黄金時代をもたらし、昭和モダンの世相を反映した《東京行進曲》(西條八十・作詞)によって、流行歌王としての地位を確立した」(映画パンフレットより)。
彼が生きた時代は、関東大震災や二・二六事件、日中戦争など、日本社会が戦争と統制に彩られていく時代でもあった。その中で、晋平は"マッチ売りの少女"のように、誰もが口ずさめる流行歌を次々と生み出していった。苦難に押しつぶされそうになる人々を思いやる晋平の愛の心が、2000曲にも昇る作品へと昇華していったのだ。
創作の原点にある"支えられたことへの恩返し"
晋平は愛の人であると同時に、深く愛された人でもあったことが、映画では丁寧に描かれている。
晋平は長野県の奥深い田舎の貧しい母子家庭に生まれた。しかし、彼の吹く横笛の音色に「音楽の神様に愛されている子供だ」と、類い稀な音楽の才能を見てとった母親は、家計をやりくりして、晋平を東京音楽学校(現在の東京藝術大学音楽学部)へと進学させ、家族一丸となって支えた。
また、妻の敏子(志田未来)も晋平の音楽に深く心酔し、献身的に支えた。病弱な敏子は45歳でこの世を去るが、入院先の病床で「自宅に帰って、あなたの音楽を聴きながら死なせてほしい」と彼に懇願する姿は、涙なしには観られない。
大川隆法・幸福の科学総裁は著書『なお、一歩を進める』の中で「成功したときには、やはり、実力だけでなった場合ではないことが多い」として、「必ずほかの人の目があるのです。ほかの人の目があって、どこかで、自分が知らないところでほめてくれていたり、引いてくれていたり、あるいは下から押し上げてくれていたりする人があって、上がることがあるのです」と指摘している。
晋平の創作活動の原点には、「母親が仕事の合間に歌えるものを作ってあげたい」という願いがあった。彼の才能の開花に助力を惜しまなかった周囲の人々の愛を感じとり、世のため人のために才能を使い切ることを心がけた中山晋平の姿には、長く成功を続けていく秘訣が垣間見えると言えるのではないか。
激動の時代に、人々と子供たちの魂を守り育む
晋平は終生、子供たちの心を明るく健やかに育むことに心血を注いだ教育者でもあった。16歳の時に郷里で代用教員を務めたことをからスタートし、晩年に至るまで、子供たちのために数多くの童謡を作り続けている。
「てるてる坊主」や「アメフリ」「雨降りお月」などの童謡の中には、欧米の幼稚園で今も歌唱されているものもあるのだという。
そして1933年、松岡洋介外務大臣が国際連盟脱退を宣言した年、晋平は西條八十とともに、盆踊りの代名詞とも言える「東京音頭」を発表する。
東京の見どころを歌った「東京音頭」は、関東大震災や昭和恐慌を乗り越えて復興していくための歌として受容され、レコードの売り上げは発売当時だけで120万枚に達したという。
映画では、病床にある敏子とともに、街角から聞こえてくる「東京音頭」を感慨深く聞く晋平の姿も描かれていた。
「ヤートナ ソレ ヨイヨイヨイ」という「東京音頭」のあっけらかんとした曲調の奥には、時代が戦乱の方向へと暗さを増していく中で、少しでも人々が、心を明るい方向へと向けられるようにと願う、晋平の切なる愛が込められていたのだ。
「マッチをすって、ろうそくをつけたら、そのろうそくの火でもって、百本でも千本でも万本でも、ろうそくに火がついていくのではないでしょうか。
与える愛の根底は、ここにあります。自分が輝くということが、結局、他に光を広げていくのです。そして、愛は、ろうそくの炎のように、決して減ることはありません。愛は、与えれば与えるほど増えていくものなのです。
この観点を忘れずに、最初の松明の火、あるいは、ろうそくの火となるように、生きていただきたいと思います」(『幸福の原点』より)。
溢れんばかりの音楽的才能を、世の人々の慰めや安らぎのために使い続けた作曲家・中山晋平の姿を描いたこの映画は、いかなる時代にあっても、愛に生きることそのものが幸福の源泉であるのだという真実の確かさを教えてくれる。(T・T)
『シンペイ 歌こそすべて』
- 【公開日】
- 全国公開中
- 【スタッフ】
- 監督:神山征二郎
- 【キャスト】
- 出演:中村橋之助 志田未来ほか
- 【配給等】
- 配給:シネメディア
- 【その他】
- 2024年製作 | 127分 | 日本
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます