トランプの返り咲きに中国はどう備えているか【澁谷司──中国包囲網の現在地】
2025.01.18(liverty web)
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アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
2024年12月28日、中国共産党は突然、2025年1月1日から935品目について最恵国待遇を下回る臨時輸入関税を実施すると発表した(*1)。
専門家によれば、北京が関税を引き下げたのは、現在の切迫した国際貿易関係と地政学的緊張の中、中国の貿易行動に対する海外からの制裁リスクを減らすためだという。
中国の科学技術革新による「新しい質の生産力」の発展を支援する分野では、消防車や回収車などの特殊車両用オートマチックトランスミッションの輸入関税が引き下げられる。
「人々の生活を守る開発」分野では、外科用埋め込みニッケルチタン合金ワイヤーなどの輸入関税の引き下げが行われる。
また、「グリーン・低炭素開発の促進」分野では、リサイクル銅・アルミニウムの一部原料の輸入関税が引き下げられる。
(*1)2024年12月30日付『中国瞭望』
貿易慣行への制裁リスクを減らす
中国共産党は、2001年12月に世界貿易機関(WTO)に加盟して以来、輸入関税引き下げの公約を果たしてこなかった。
台湾の南華大学国際企業学部、孫国祥(そんこくしょう)教授の分析によれば、中国は長年にわたり、市場アクセスや補助金政策でWTOや主要貿易相手国から批判を受けてきた。そのため北京は現在、約束を部分的に履行することで、貿易慣行に対する外部からの制裁のリスクを減らそうとしているのではないかという。
中国はWTO加盟時に関税引き下げを約束したはずなのだが、それを果たさないまま利益を享受してきた。そんな北京は、約束を守らない"ならず者"という過去のイメージを変え、国際貿易の緊張を和らげたいという思惑があるのかもしれない。だが、先にバスに乗り込み、数十年経ってから、今頃チケット代を支払うそぶりを見せているようにも見える。
米国のエコノミスト、デビッド・ホアン(黄大衛)氏も、「現在、北京と西側との貿易摩擦は激しいため、中国は率先して関税を調整し、表向き輸入構造を最適化することで、(摩擦を緩和し)輸出の助けにしようとしている」と指摘する。
またホアン氏は、北京は"自由貿易協定"を通じて地政学的な影響を海外に及ぼし、ASEANをはじめ、世界経済とサプライチェーンにおける発言力と交渉力を高めようとしていると主張した。