9)コンパクト・シティーから続く。
筆者が理解する「コンパクト・シティー」は「街道沿いの小さな町」である。この原点から街道は高速道路、鉄道、海路、空路に発展する。また、小さな町は集落、村、市から大都会に発展する。そのような都市の発展を考えるとき、ソクラテス(Socrates:BC469年頃~BC399年)の対話(Dialog)を思い出す。
それは「都市の中の専門化/分業」(Specialization Within the City)と題した対話である。
その内容は次のとおりである。
・・・われわれの一人ひとりは自給自足できないが、多くのものを必要とする(…each of us is not self-sufficient but needs many things.)。第一に食べ物(food)、第二に住むところ(housing)、第三に着るもの(clothes)が必要になる。では、人が集まる都会ではどのようにこれらのものを供給できるだろうか?一人が農作物を作る人(farmer)、一人が家を建てる人(builder)、布を織る人(weaver)・・・また、靴を作る人(shoemaker)も必要になる。・・・実際には最も小さな都市は4、5人で成成り立つのだろうか? そのようだ(Then the smallest possible city will consist of four or five men? So it seems)。
【補足:ソクラテスは著書を残さなかったが、彼の弟子であるプラトー(Plato:427~347BC)はソクラテスの教えを手紙(Letter)と対話の形式で書き残している。プラトーの「国家 第2巻」(Book II of Plato's Republic:380~370BC頃の著書)に「都市内の専門化」が出てくる。】
この「都市内の専門化/分業」を「社会的分業」というが、この分業、つまり職業の発生はソクラテスの時代に始まったものではない。
筆者の想像になるが、この分業は人類の道具造りとほぼ同じ頃に始まったと考える。たとえば、石器を作る人と使う人は、初めのうちは同じだったかもしれないが、やがて作る人は作ることに専念するようになったと思う。当然、もの造りには得手・不得手(エテ・フエテ)があるので、集団の中に専門化が進むのは自然な成り行きである。
15万年以上前にアフリカに現れた現生人類(ホモ・サピエンス)は石器や木製の道具を使っていた。また、日本列島でも日本人の祖先が後期旧石器時代(約3万5千年前)に磨製石斧前を使っていたといわれている。このような出土品から、日本列島においても少なくとも3万5千年前に「社会的分業」が存在したと考えられる。
ちなみに、石器に続く土器では、青森県大平山元Ⅰ遺跡から出土した縄文時代草創期(約1万6千年前)のものが日本最古の縄文式土器である。全くの空想であるが、この頃には土器を使う食堂が存在したかも知れない。なお、大平山元Ⅰ遺跡の縄文土器より古い土器は世界のどこにも出土していない。
現生人類より古い時代のことはよく分からないが、ソクラテスと弟子たちが論じた「社会的分業」は、産業革命の頃に新しい段階に進展した。それは、「社会的分業」から工場における「仕事の分業」への変化だった。
A.スミス(1723-90)は、ピンの製造工場の生産性が仕事の分業(division of labor)で大きく改善したと国富論第1巻、第1章(1776)で報告した。
たとえば、針金を一定の長さに切断して先をとがらせもう一方の端を研磨するという一連の仕事を想定する。この一連の仕事を、針金の切断、先端をとがらせる、、、と単純な仕事に分割する。分割した仕事では効率が良くなり品質のばらつきも減少する。また、単純な仕事は比較的簡単に機械化(自動化)できる。
製造工程の自動化・ロボット化は単純な作業(工程)にとどまらず、複数な工程の自動化も実現した。それは、多機能ロボットへの発展であり、省力化と多品種少量生産を可能にした。また、工場内の資材の運搬や倉庫の自動化も進み、人影がまばらであるにもかかわらず、フル稼働する工場が現れた。いわゆるFA(Factory Automation:ファクトリー・オートメーション、自動化工場)である。特に、1980年代の日本では、FAを目指して溶接ロボット、塗装ロボット、組立ロボットを始めとする産業用ロボットの導入が盛んになった。
日本は世界有数のロボット生産大国である。すでにロボットがロボットを製造する時代に至っている。当然ながら、技術の進歩はロボットの小型化・高速化・汎用化(知能化)・安全性の確保の方向に進み、その活動領域は工場から一歩ずつ一般社会に広がっている。すでにサービス、医療、介護、軍事の分野へのロボットの導入は珍しくないが、今後のニーズに応じた次世代のロボットは未知数、大きな可能性を秘めている。
コンパクト・シティーは続く。