切れたメビウスの輪(7)

2016-12-02 21:36:10 | 怪奇小説
こうして二人は、横顔生夫の家に向かったが、縦顔死郎が
「私の家もこっちの方ですよ。」
「ああ、そうですか。あそこが、私の家です。」と横顔生夫。
「えっ、わたしの家もここですよ。」と縦顔死郎。

「えっ、ここは私の家ですよ。この玄関から中に入ってみましょうか。ここが私の部屋で、ここがキッチンで、ここが風呂場です。そして、わたしが出入りしている玄関はこっちですよ。」と横顔生夫。
「私の家には、そっちには入口は有りませんよ。あれっ、入口が有る。」と縦顔死郎。
「ここは私の家です。この玄関から中に入ってみましょうか。ここが私の部屋で、ここがキッチンで、ここが風呂場です。」と縦顔死郎。

「あれっ、私の部屋とは左右が反対だ。」
「同じ家だが、生きている人の世界と、死んでいる人の世界では変わるんですね。」
「そうみたいですね。」
「それにしても、あなたと同じ家に住んでいるとは知らなかったですね。」
「そうですね、奇遇ですね。」

「ところで、あなたが生き返えるか、私が死に返えるかしないと会えないようですね。」
「そうですね、毎日でなくても、たまに会いたいですよね。」
「たまに、生き返えるか、死に返えるかして、こうしてイッパイやりましょうか。」
「いいですね。」

「お互いの合図はどうしますか?」
「私は携帯電話を持っていますが、死んでいる世界のあなたは携帯電話をお持ちですか?」
「携帯電話って何なのですか? みんなとはテレパシーで話をしますので、そういう物は持っていません。」
「そうですか。」
「それでは、二階に旗を立てましょう。
『今日の都合はどうですか?』
という時は赤色の旗を、
『明日は如何ですか?』
という時は黄色の旗を、
『近いうちに如何ですか?』
という時は緑色の旗を立てるのです。」
「それは良い考えですね。」
「そして、OKであれば、その旗を半分まで下ろして、ダメな時は旗をしまうのです。」
「いいですね。」
「それでは、後で赤色の旗を立てときますね。」
「分かりました、その後で、私がその旗を半分下げときますね。」
「いいですね。明日も宜しくお願いします。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。」

「ところで、今はどっちの世界なのですかね?」
「私は自分の居る、生きている世界だと思うのですが。」
「いいえ、わたしの死んでいる世界だと思いますよ。」
「今、この家に入る時に、私の使っている入口と、あなたの使っている入口の両方有りましたよね。今は両方の世界なのではないでしょうか?」
「そうですね、確かに入口が両方有りましたよね。この状態だと、お互いの入口でトントンとノックをすればいいので、旗は要らないですね。では、旗はもう一つの入口が無いときの合図にしましよう。」
「そうしましようか。」
「それでは、明日の約束の旗は立てませんからね。」
「了解しました。では明日また。」
「はい、おやすみなさい。」