切れたメビウスの輪(18)

2016-12-13 21:02:14 | 怪奇小説
「この駅で下りて、会社まで歩いて行きます。」
「会社までどれくらい歩くのですか?」
「私の行く会社は十分ほどです。」
「会社は、なぜもっと近くにないのですか?」
「わが社はあまり儲かっていないので、高い事務所家賃は払えないのですよ。」
「なぜ儲かっている会社と、儲かっていない会社があるのですか?」
「経営者の、運と少しの努力と、大きなハッタリの結果ですよ。」
「あなたは、ハッタリは得意ですか?」
「いいや、私はコツコツとやるタイプですから、ハッタリはすぐバレてしまいます。」
「それでは、あなたは経営者になれないですね。」
「自分でも分かっています。」
「努力をしないのですか。」
「ハッタリは嫌いだから努力しません。」
「仕事だから、ハッタリは嫌いとは言えないのではないですか?」
「いいのです。嫌いなことはやりません。」

そして、二人は会社のあるビルに着き、
「ここの十階が会社です。ところで、会社には社員以外は入れないですよ。」
「わたしは、あなた以外には見えませんから大丈夫です。」
「えっ、あなたのお兄さんを探している時に、お兄さんがワープした場所の文房具屋さんには見えていたのではないですか。」
「あの時は、見える必要があったので、見えるようにしていたのです。」
「へぇー、そういうことができるのですか。」
「ええ。」

「では、エレベーターに乗って十階へ行きましょう。」
「エレベーターは便利ですね。」
「五階以上の建物はエレベーター設置が義務付けられていますからね。」
「たくさんの人が乗ってくるのですね。」
「そうですね、たくさんの会社がはいっていますからね。時々、乗りすぎて、重量オーバーとなり、最後に乗ってきた人が降りないといけない時があるのですよ。」
「大変ですね。」
「どこのビルでも同じだと思いますよ。」
「そうですか。」
「さあ、十階に着きました。ここが会社です。」
「きれいな事務所ですね。だけれど、社員が少ないですね。」
「いや、まだ社員が来ていないのですよ。」
「何時ごろに来るのですか?」
「始まる五分前くらいに来ますよ。」
「ギリギリに来るのですね。」
「遅れなければいいのですよ。」

「さあ、朝礼が始まりますよ。」
「朝礼では何を話すのですか。」
「朝の挨拶と、会社の予定と自分たちの今日の行動予定を連絡しあって、情報共有を図るのです。」
「情報共有を図ってどうするのですか?」
「本人が居ない時に連絡があった場合に、応えられるようにするのです。」
「応えられるのですか?」
「全ては応えられないですね。」