第一章 商社勤務
治子は入社した時の社員旅行で、会社の保養施設である長野県上田市の鹿教湯(カケユ)温泉の湯治場に来た事があった。
「それでは、新入社員の美人三人を紹介します。」
「幹事、三人とは桐谷治子さんと山﨑令子さんと岡村ユリさんだろう。美人なのはみんな知っているよ。三人には後で歌ってもらうから飲もう飲もう。」
「はい、はいっ、それでは本部長、乾杯の発声をお願いします。」
「それでは美人の三人のこれからの活躍を祈念して乾杯。」
入社したばかりの時は、同期入社の仲間でボーリングやコンパで和気あいあいの時間が有ったが、山﨑令子も岡村ユリも既に退職して治子の周りに今はいない。
「令子、この前の社内ボーリング大会で二百アップして優勝したわよね。私なんか百五十がいいところよ。」
「私も百七十が限度よね。」
「ユリはお酒が強いわよね。どれくらい飲めるの?」
「カクテルなら五杯くらいで、ビールなら三本かな。」
「酔っぱらったことは無いの?」
「実を言うと、二日酔いになる時があるのよ。会社へ来てもキツイわよ。」
「私なんかカクテル一杯がいいところよ。」
「私も一杯くらいかな。」
しかし、競争の厳しい商社では社員の評価は、数字が絶対的であり、勝ち誇っていた治子は令子やユリや他の男性社員とのコミュニケーションは殆ど無かった。いや、治子自身から『私と一緒にしないで。』という態度によって、孤立していった。
治子の上司も治子を頼もしく思い、取引先との時差による長時間の勤務にも対応する治子に頼らざるを得なかった。
治子はこの商社で一つの商品を任されて、多くの国に輸出を行っていた。
その頃は世界経済が好景気の恩恵を受けて、毎日夜遅くまで仕事をしていて、自分の生活を考える時間的な余裕が無かった。
治子は有能な女子社員として上司の絶対的な信頼を得ている反面、他の女子社員とはコミュニケーションが悪く、会社を出て仕事を離れた時の治子には空虚感が漂っていたのである。
治子は自炊する時間が取れないので、夜遅くに外食をして帰っていたが、同じように夜遅くまで勤務している男性同僚の白石と時々夕食を共にしていた。
治子は入社した時の社員旅行で、会社の保養施設である長野県上田市の鹿教湯(カケユ)温泉の湯治場に来た事があった。
「それでは、新入社員の美人三人を紹介します。」
「幹事、三人とは桐谷治子さんと山﨑令子さんと岡村ユリさんだろう。美人なのはみんな知っているよ。三人には後で歌ってもらうから飲もう飲もう。」
「はい、はいっ、それでは本部長、乾杯の発声をお願いします。」
「それでは美人の三人のこれからの活躍を祈念して乾杯。」
入社したばかりの時は、同期入社の仲間でボーリングやコンパで和気あいあいの時間が有ったが、山﨑令子も岡村ユリも既に退職して治子の周りに今はいない。
「令子、この前の社内ボーリング大会で二百アップして優勝したわよね。私なんか百五十がいいところよ。」
「私も百七十が限度よね。」
「ユリはお酒が強いわよね。どれくらい飲めるの?」
「カクテルなら五杯くらいで、ビールなら三本かな。」
「酔っぱらったことは無いの?」
「実を言うと、二日酔いになる時があるのよ。会社へ来てもキツイわよ。」
「私なんかカクテル一杯がいいところよ。」
「私も一杯くらいかな。」
しかし、競争の厳しい商社では社員の評価は、数字が絶対的であり、勝ち誇っていた治子は令子やユリや他の男性社員とのコミュニケーションは殆ど無かった。いや、治子自身から『私と一緒にしないで。』という態度によって、孤立していった。
治子の上司も治子を頼もしく思い、取引先との時差による長時間の勤務にも対応する治子に頼らざるを得なかった。
治子はこの商社で一つの商品を任されて、多くの国に輸出を行っていた。
その頃は世界経済が好景気の恩恵を受けて、毎日夜遅くまで仕事をしていて、自分の生活を考える時間的な余裕が無かった。
治子は有能な女子社員として上司の絶対的な信頼を得ている反面、他の女子社員とはコミュニケーションが悪く、会社を出て仕事を離れた時の治子には空虚感が漂っていたのである。
治子は自炊する時間が取れないので、夜遅くに外食をして帰っていたが、同じように夜遅くまで勤務している男性同僚の白石と時々夕食を共にしていた。