切れたメビウスの輪(17)

2016-12-12 21:12:09 | 怪奇小説
第八章 横顔生夫の住む世界

暫くして、横顔生夫が縦顔死郎の世界の招待のお返しとして、自分の世界を招待するためにドアをノックした。

「縦顔死郎さん、明日、私と一緒に会社に行ってみませんか?」
「面白い所ですか?」
「面白くはありませんが、人によっては活気が有って素晴らしい所ですよ。しかし、人によってはギスギスした所で足の引っ張りあいが全ての所ですよ。」
「あなたは、どちらだと思うのですか?」
「半分半分ですね。」
「なぜ半分半分なのですか?」
「うまくいっているときは活気がある場所ですが、一度つまずくと、周りから攻撃されて、つぶされます。会社はそういう場所なのですよ。」
「良い方向に直さないのですか?」
「みんな逃げているのですよ。」
「どうして、みんな逃げるのですか?」
「火の粉を被りたくないんですよ。」
「火の粉を被ると、どうなるのですか?」
「叩かれた者の仲間のように見られ、ピンチになる可能性が高くなるんですよ。」
「それで、みんな逃げるのですか?」
「口では優しく声をかけますが、本心はどうかなあ?」
「そうですか、会社はイヤな所ですね。」
「いやいや、みんながそうじゃないですよ。気の会う奴もたくさん居て、そいつらと一緒だと、仕事も楽しいし飲みに行っても酒が旨いですよ。」

「それでは、気の合う人が居る所へ、少しだけ行ってみましょうか。」
「会社へはどうやって行くのですか?」
「駅までバスに乗って、次は電車に乗り換えます。」
「私の記憶にあるバスは、運転席の前が鼻のようになっていましたが変わったのですね。」
「ボンネットバスは、今は遊園地くらいしか走っていませんよ。」
「駅も電車もきれいですね。」
「お客さんが多いドル箱路線は綺麗ですが、人口の少ない地方は、ドル箱路線の古い車両が使われるので、こんなに綺麗ではないですよ。」
「なんで、お客さんが多い少ないで、電車が新しかったり、古かったりするのですか?」
「お客さんが少ないと経費がかけられないんですよ。」
「だけれど、少ないお客さんでもお客さんにはかわらないですよね。どうして人口の少ない地方の人は我慢しているんですか?」
「我慢強いんですよ。」
「我慢強い人に押し付けているのですか?」
「結果的に、そうなっていますね。」
「良くないですね。」
「そうですね。」