切れたメビウスの輪(10)

2016-12-05 21:06:14 | 怪奇小説
そして、二人はワープしたと思われる場所の近くに、古い店構えの文房具店へ行き、縦顔死郎の兄の消息を聞いてみることにした。

「そうそう、随分と昔だけれど、小学一年生くらいの男の子が転がるように走ってきたのを覚えているわ。平らな所なのに、まるで坂道を駆け下りるような勢いだったのでよく覚えているのよ。」
「その子は何処から来たのか話していました?」
「いいや、自分でも分からないみたいで、何を聞いても話をしなかったわ。」

「名前は何んと言っていました?」
「自分でも、何が何だか分からなくてキョトンとして、名前も何も話さなかったの。そして、わたしの持っているお煎餅をあげると美味しそうに食べたので、お腹が空いているのと聞くと、何か食べたいと言ったので、わたしの家に連れて行き、ご飯を食べさせると美味しそうに食べたわ。」

「それから、どうしたんですか。」
「ご飯を食べたら出掛けてしまったの。」
「居なくなってしまったのですか?」
「いいえ、何日かして帰って来たので、何処へ行っていたのか聞いたら、弟を探しに行っていたのだけれど、見つからなくて帰って来たんだと言っていたのよ。それからずっとここにいたんだけれど、一年前に病気で死んでしまったの。」

「私がその弟です。双子の弟なのです。」
「あらっ、そうなの。さっきからよく似ているわねと思っていたのよ。」
「そうですか、死にましたか。兄がお世話になったようで、ありがとうございました。」
「いえいえ、だけれど残念でしたね。」