切れたメビウスの輪(14)

2016-12-09 21:33:50 | 怪奇小説
童話 『一年だけの友達』
私はこの家の玄関の横に生えている小さな草で、小さなお花をたくさん咲かせます。だけれど、お花の本には私の名前は載っていません。

この家の女の子は私を大切にしてくれて、毎朝、学校へ行く時に
「小さなお花さん、おはよう。行ってきます。」
と言ってくれます。
そして、学校から帰ってくると
「小さなお花さん、ただいま。今、お水をあげるからね。」
とお話しをして、お水をかけてくれます。

小さな草の私も夜になると眠るので、夢をみることがあります。
昨日の夢は、女の子と私は手をつないで学校へ歩いて行きました。そして、学校で私は女の子の横に座りました。
国語の本を読む時は、女の子の次に読み、算数のお勉強では、女の子と一緒に手をあげて答を発表しました。
体操の時間は、私は走れないので、座って女の子が走るのを応援しました。
そして、女の子と手をつないで帰って来て、玄関の横で女の子とわかれました。

朝になって、女の子が
「小さなお花さん、おはよう。行ってきます。」
と言って学校へ行ったので、私は
「行ってらっしゃい。」
と言う練習をしました。
そして、学校から帰ってきた女の子が
「小さなお花さん、ただいま。今、お水をあげるからね。」
と言ってくれるので、私は
「おかえりなさい。」
と、
「いつもお水をありがとう。」
と言う練習もしました。

次の日は声が小さくて女の子は気がつきませんでした。だけれど、その次の日、私は
「行ってらっしゃい。」
と大きな声で言いました。
すると、女の子はうれしそうに
「行ってきます。」
と言って学校へ行きました。そして、女の子が帰ってきた時に
「おかえりなさい。」

「いつもお水をありがとう。」
を言うと、女の子はうれしそうに
「ただいま。」
と言いました。

その夜、私は女の子と手をつないで歩きながら、たくさんお話しをしている夢をみました。
朝になって私は女の子に夢の話をすると、女の子も同じ夢をみていました。
女の子が学校から帰って来た時に
「今日も同じ夢をみるといいわね。」
と言いました。

その夜、私は女の子と女の子のお父さんとお母さんの四人でサイクリングに行っている夢をみました。
私は女の子の自転車の前カゴに乗せてもらいました。川の土手は気持ちが良くて、土手でお昼ご飯を食べました。

次の朝に女の子にサイクリングに行った夢の話をすると、女の子は
「サイクリングは楽しくて、川の土手で食べたお昼ご飯はおいしかったわね。」
と言いました。女の子も私と同じ夢をみたのでした。

それから、私と女の子は、ずっと同じ夢をみました。
そして夏が過ぎて、私のたくさんの花は種となって風に乗って遠くに飛んで行きました。私は一年で枯れてしまう一年草なので、秋には枯れてしまうことを女の子に話しました。
「今まで大切にしてくれて、ありがとう。私はたくさんの種を残したので、私と同じ小さな草が生えてきたら、私と同じように大切にしてね。そして、散歩やサイクリングに連れて行ってね。」
「ええ、わかったわ。今まで楽しくしてくれて、ありがとう。」
「今日は、あなたが学校から帰ってきた時には、もう枯れて生きていないと思うの。私の種をお願いね。さようなら。」
「わかったわ、さようなら。」

そして、秋となり、冬が終ってまた春になりました。女の子が学校へ行く朝に、次の私は玄関の横から
「おはよう。」
と言いました。
女の子は玄関の横で、去年生えていたのと同じ小さな草が生えている私を見つけました。
女の子は
「あなたは私を知っているの?」
と言ったので、
「ええ、小さなお花を咲かせていたお母さんから、あなたに大切にしてもらったことを聞いていたわ。」
と答えました。
「そう、うれしいわ。あなたも大切にしてあげるからね。」
「ありがとう。」

そして、去年と同じように、
「行ってらっしゃい。」、
「おかえりなさい。」
とお話しをして、毎日同じ夢をみました。
また秋がきて、一年草はたくさんの種を残して枯れてしまいました。
その次の春に、女の子が学校へ行く時に、玄関の横から
「おはよう。」
という声が聞こえきました。
玄関の横を見ると、去年も生えていたのと同じ小さな草が生えているのを見つけました。
「あなたは私を知っているの?」
「ええ、小さなお花を咲かせていたお母さんから、あなたに大切にしてもらったことを聞いていたわ。そのお母さんもおばあちゃんから、あなたのことを聞いたと言っていたわ。」
「そう、うれしいわ。あなたも大切にしてあげるからね。」
「ありがとう。」
そして、私達と女の子との一年ごとの友達は、今も続いています。
  おしまい。』