切れたメビウスの輪(13)

2016-12-08 21:03:21 | 怪奇小説
第七章 童話作郎

それから暫く横顔生夫のもとには、縦顔死郎や縦顔生郎から連絡は無く、横顔生夫は残業の続く忙しい毎日をおくっていた。

「トントントントン、トントントントン」と聞き覚えのあるノックの音がしたので、横顔生夫がドアを開けると、縦顔死郎と縦顔生郎が立っていて、
「私達の住んでいる世界に童話作家が来て、子供達に童話の読み聞かせをするので、来ませんか?」
と、童話を作る趣味をもっている横顔生夫に、縦顔死郎が誘った。

「以前、ビールを飲んでいる時にお話ししましたとおり、それは、わたしがやりたかった事ですので、是非行きたいですね。」と、横顔生夫。
「それでは、すぐ行きましょう。」
「えっ、今すぐですか?」
「そうです、今すぐです。」
「わたしは昼御飯をまだ食べていないので、ちょっと待って下さい。」
「私達の世界に来ると、お腹が減らないので、昼御飯を食べなくても大丈夫ですよ。」
「それでは行きますか?」

縦顔死郎の案内で三人がしばらく歩いて小高い丘に来た。
小高い丘の芝生の上に、子供達が体育座りをしていて、その真ん中に小さな椅子が置いてあり、座る主を待っていた。
そこに、横顔生夫たち三人と同じくらいの年配の男性が現れ、
「はぁ~い、童話のオジサンで~す。」
と、テンションの高い登場をしたので、子供達は大きな拍手をして童話のオジサンを迎えた。

「良い子のみんな、元気ですね。オジサンは、みんなに楽しい童話を読んであげるために遠くからやって来ました。」

この世界の子供達に『元気ですね。』と言うフレーズは間違っているが、オジサンの生きている時の口ぐせである。
そして、オジサンは、この世界に来て間がないので、『遠くからやって来ました。』と言うのは正しいのである。

「今日は、良い子のみんなに『一年だけの友達』を読みます。
仲の良い友達なのに、どうして『一年だけの友達』なのかな?
聞いてもらうと分かるよ。それでは、読みますね。」