「駿河薩タ之海上」(静岡市清水区由比町)
左手に切り立つ絶壁が薩埵山で、向こうに清見潟(駿河湾)と愛鷹山、富士山を遠望している。由比から興津にかけては、かつては薩埵山の絶壁の波打ち際を通る道で「浪の関所」とも称される難所であった。江戸時代になって峠道が開鑿され、波にさらわれる危険はなくなったが、急勾配の峠を越えなくてはならない。その分、眺望が素晴らしく、駿河湾越しに富士を望む薩埵峠の景観を多くの画家が描いている。
葛飾北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の影響が見られるが広重はこれらの要素を、縦長の画面に巧みに構成し、鮮やかな色彩で広重らしい作品に仕上げている。′