NEST OF BLUESMANIA

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#142 チャンピオン・ジャック・デュプリー「Frankie & Johnny」

2010-10-09 14:02:10 | Weblog
#142 チャンピオン・ジャック・デュプリー「Frankie & Johnny」(Blues from the Gutter/Atlantic)

ニューオリンズ出身のブルースマン、チャンピオン・ジャック・デュプリーのアトランティック時代の録音より。トラディショナル。

デュプリーは1909年生まれ。幼い頃孤児となり、孤児院に入れられる。10代半ばにそこを出て、ピアノを覚え、プロのピアノ弾きとなる。

だが時代は大恐慌を迎え、不況のためその職では食えず、シカゴに移ってプロボクサーとなり、10年間活躍。つまりこのキャリアが「チャンピオン」というニックネームの由来なのだ。

ボクサー引退後、初レコーディング。特徴のある、半ば酔っぱらったようなラフな歌いぶり、ニューオリンズ・スタイルのピアノ・プレイで注目される。当時の代表曲は「ジャンカー・ブルース」。

兵役後ニューヨークに移り、いくつかのレーベルにて録音。しかし58年アトランティックで録音したのを最後に、60年代以降は、ヨーロッパへ活動の拠点を移してしまう。

きょうの一曲「Frankie & Johnny」は渡欧前に録音されたもので、白人・黒人を問わずアメリカの国民的歌手とよばれるようなアーティストなら誰もが歌っていたトラディショナルだ。ルイ・アームストロングをはじめとして、ビッグ・ビル・ブルーンジー、サム・クック、ブルック・ベントン、ジョニー・キャッシュ、エース・キャノン、マービン・ゲイ、エルビス・プレスリー、ハンク・スノウ、ジミー・ロジャーズ(白人)、ジーン・ヴィンセント、ドク・ワトスン、メイ・ウェスト、レイ・チャールズ、スティービー・ワンダーといった歌い手たちがレコーディングしており、もちろん、エリントン、ベイシーほかによる、インストものも数限りなくある。アメリカ人なら誰もが知っている愛唱歌、そんなイメージだ。

デュプリー版は、いかにも彼らしいパーカッシブなピアノと、天衣無縫なボーカルを聴くことが出来る。これにゆるい感じのサックスが加わり、この曲のもつ脳天気な雰囲気をいっそう盛り上げている。

デュプリーの滞欧は実に30年に及び、その間、膨大なレコーディングを行っている。ようやく故郷のニューオーリンズに戻ったのは90年であった。

以降、92年1月に亡くなるまでの短い期間を、レコーディングやコンサート出演に追われるようにして、忙しく過ごしたという。傘寿にして人生最大のハイライトを迎えたってわけだ。見事なフィナーレである。

デュプリーの生み出したブルースは、出身地がニューオリンズなだけに、とても陽性で賑やかなものである。その個性的な歌や演奏は、ファッツ・ドミノ、プロフェッサー・ロングヘアにさえ影響を与えたという。

上手い下手というよりは「味わい」で勝負するのがブルースという音楽。ニューオリンズが生んだ唯一無二のチャンプ、デュプリーの鋭いアッパーカットを、ぜひ味わってみてくれ。

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