2002年3月31日(日)
ラリー・カールトン「夜の彷徨(さまよい)」(ワーナー WPCR-758)
(1)ROOM335(ルーム335)
(2)WHERE DID YOU COME FROM(彼女はミステリー)
(3)NITE CRAWLER(ナイト・クロウラー)
(4)POINT IT UP(ポイント・イット・アップ)
(5)RIO SAMBA(リオのサンバ)
(6)I APOLPGIZE(恋のあやまち)
(7)DON'T GIVE IT UP(希望の光)
(8)(IT WAS) ONLY YESTERDAY(昨日の夢)
今日の一枚はこれ。ギタリスト、ラリー・カールトンのソロ・デビュー・アルバム。78年リリース。
この4月22日~27日には、来日公演をブルーノート東京で行うという、ラリー・カールトン。
クルセイダーズのギタリストとしてデビューして30年、この手のフュージョン系ギタリストではすっかりベテランの部類に入ってしまった。
デビューの頃にはふわふわのロング・ヘアーと甘いマスクが売りで「フュージョン界のプリンス」と呼ばれていた彼も、今や「ジョン・マルコヴィッチのそっくりさん」と言われているとか、いないとか…。
それはさておき、このデビュー・アルバム、78年の日本において、フュージョン系アルバムでは最も売れた一枚であった。
CD化されたものをひさしぶりに聴いても、それは十分ナットクがいく。
まずは「ミスター335」との異名をとる彼の、「名刺」といってもよいナンバー、(1)からスタート。もちろん、自作のインストゥルメンタル。
タイトルは彼の自家用スタジオの名前からとったというが、もちろん、それも彼愛用のセミホロウギター、ギブソンES335から来ている。
サンバーストでブロック・インレイの、この335から紡ぎ出される音、これが実にいい。
エコーなどエフェクト処理はされているものの、基本的にはナチュラルな音で、伸びやか、しかもツヤがある。
このアルバムがきっかけで、一時日本でも335の売れ行きが急増したというぐらいだ。
流麗なストリング・アレンジを交えた、軽快なリズムに乗り、全面にフィーチャーされる彼のソロ。
同時期、スティーリー・ダンのアルバム「AJA(彩)」でも客演していた彼の、派手なチョーキングも交えた、ロック感覚あふれるギター・テクニックは、当時のギター少年たちをみな虜にしたというのも、うなずける。
スピーディ、スリリング、でもバランス感覚も抜群と、文句なしのプレイである。
(2)は歌もので、ラリーがソフトなヴォーカルを披露。バック・コーラスで参加している、ウィリアム・スミッティ・スミスの作品。
ちょっとアンニュイでミステリアスな雰囲気の、ボサノヴァ・テイストのナンバー。
多重録音による、ツインリードがなんともカッコよい。
(3)は、クルセイダーズでのレパートリーでもあった曲の再演。ラリーの作品。
もちろんここでは、彼のギター(ツイン)を前面に押し出したアレンジになっている。
ゆったりとしたリズムで、夏の夜の気だるさを思わせる曲調。
スピーディな曲だけでなく、タメを必要とする曲でも、ラリーは実に達者なプレイを聴かせてくれる。
そして、裏方ながらなかなかいいプレイをしているのが、キーボードのグレッグ・マシスン。
ラリーのライヴ・バンドにも参加することになる、LAで活躍するスタジオ・ミュージシャンだ。
また、ファンキーで強靭なリズムを生み出しているのは、ベースのエイブラハム・ラボリエルとドラムのジェフ・ポーカロ。
エイブはブラジル出身の黒人ベーシスト。ジェフはもちろん、有名なポーカロ兄弟のひとりで、ロックバンド「TOTO」のドラマーとしてもおなじみのプレイヤー。
これにパーカッションのポリーニョ・ダ・コスタが加わる。彼も、ブラジル出身の実力派スタジオ・ミュージシャン。
こういった強者が揃ったおかげで、サウンドは実に多彩で、ジャズ、フュージョン、ラテン、ブラジリアンミュージック、ロックなどさまざまな音の万華鏡を見るかのようだ。
(4)は一転、アップ・テンポの16ビート・ナンバーへ。ラリーのオリジナル。
ここでは水を得た魚のように、バリバリ、ゴリゴリ弾きまくるラリー。ロック・ギタリストも顔負けだ。
でも、これ見よがしの速弾きではなく、きちんと自分の音楽世界を構築しようという、計算がきちんとなされたプレイだと思う。
ロック系のギタリストにありがちな、手くせギターではなく、全体の構成をじっくり考えて練りこまれたソロ。
だから、何回繰り返し聴いても、あきが来ない。これはスゴいことだと思う。
(5)も彼の作品。タイトル通り、ラリーのブラジル音楽への志向が感じられる、一曲。
サンバのサウンドに、彼の歌ごころあふれるギター・ソロがからむ。
マシスンのキーボード・ソロに続く、ラボリエルの本場仕込みのベース・ソロもごキゲン。思わず、体が動き出しそう。
(6)は、(2)同様、ウィリアム・スミスが作曲した、歌もの。
なんともホンワカしたノリのラリーのヴォーカル(どことなく、マイケル・フランクス風)とは対照的に、サウンドはかなりテンションが高く、思い切り泣きまくるラリーのギターが聴きもの。
(7)は、ふたたびアップ・テンポで、変則的なブルース進行のナンバーを。ラリーの作品。
ここでも気合いの入った、スピーディなギター・ソロが全面に展開される。
転調につぐ転調のアレンジが、実にカッコいい。マシスンのオルガン・ソロもグー。
さて、最後はしっとりと、スロウ・バラード(8)を。これもラリーの作品。
静かに始まり、次第に盛り上がって行く、泣きのギター・プレイ。
これぞ、ジェフ・ベックの「悲しみの恋人たち」と双璧を成す、ギターによるロック・バラードの名作だ。
全編、一分の隙もない完璧なアレンジ、計算しつくされたソロ、しかもダイナミックさは決して失わないヴィヴィッドな演奏。さらにいえば、録音技術も最高レベルにある。
ラフな作りのロックにもそれなりの魅力はあるが、やはりこの完成度の高いサウンドの前には、かすんでしまうだろう。
デジタル導入以前の時期の録音ではあるが、CDでもそのサウンドの素晴らしさはよくわかる。
ブルーズィにしてメロウ、パワフルにしてセンシティヴなラリーのギター・サウンドは、無敵だ。ロック・ファン、フュージョン・ファン、いずれにもおススメ。
若さに溢れたパッショネイトな一枚。聴くべし。