2023年3月10日(金)
#478 ROXY MUSIC「ROXY MUSIC」(Reprise 9 26039-2)
英国のロック・バンド、ロキシー・ミュージックのデビュー・アルバム。72年リリース。ピート・シンフィールドによるプロデュース。
ロキシー・ミュージック(以下ロキシー)はボーカルのブライアン・フェリーを中心に、71年に結成。
メジャー・デビューのきっかけは、フェリーがキング・クリムゾンの、グレッグ・レイクに代わる新ボーカリストのオーディションに応募したことだった。
新ボーカルはフェリーでなくボズ・バレル(後のバッド・カンパニーのメンバー)に決まったが、フェリーに特別な才能を感じたロバート・フリップとビート・シンフィールドが、所属のEGレーベルに彼を紹介したのである。
初期メンバーを入れ替えてレコード・デビューを果たしたロキシーのメンバーは、フェリーのほかギターのフィル・マンザネラ、ベースのグレアム・シンブソン、サックスのアンディ・マッケイ、シンセサイザーのブライアン・イーノ、ドラムスのボール・トンプソンの6人。
当初の曲は作詞・作曲ともにすべてフェリーが手がけて、アレンジは各メンバーが行なっている。
オープニングの「リ-メイク・リ-モデル」は、ジャム・セッション的なノリのビート・ナンバー。
各メンバーの即興演奏をベースにして、それにフェリーのシャウトが乗っかっていく。
ビートルズの某曲のリフが脈絡もなく飛び出したりして、思わず笑いを誘う。キング・クリムゾン風のホーンもちらっと聴こえる。
マンザネラのファズを効かせたノイジーなギターが、この曲の混沌としたイメージを作り上げている。
「レディトロン」はイーノによる深遠なシンセ・サウンドから始まるナンバー。循環コードを用いた、どこかしらクリームの「ホワイト・ルーム」っぽい曲調。
数回にわたるリズム・チェンジのセンス、ギターとサックスのハーモニーなどに、キング・クリムゾンの強い影響が見てとれる。
この曲を聴くと、ロキシー=プログレッシブ・ロック・バンドなんだなと感じざるを得ない。
あるいは、アート・ロックともいえる。
ポピュラー・ミュージックのフォーマットをギリギリふまえながらも、あえて分かりやすさを追求せず、芸術としての表現の方を優先しているのだ。
「イフ・ゼア・イズ・サムシング」はこちらも循環コードを用いたバラード・ナンバー。
冒頭を聴いただけでは、まるで米国バンドみたいなサウンド。ピアノをフィーチャーしていることもあり、ザ・バンドを想起した人もいるはず。ギター・ソロもロバートソンっぽい。
しかし、それも途中までだ。
後半からのフェリーのやや不安定で神経症的なボーカル、憂愁を帯びた独特のメロディ・ラインは明らかに米国のロックとは異質のものである。
そして、この曲でもシンセとギターの音色が、サウンドの質感の決め手となっている。
「ヴァージニア・プレイン」はアメリカ盤のみ収録の、短いナンバー。
表面的には明るくて陽気な、でも本質的にはカタルシスのまるきりない、ロキシーらしい空虚なロックンロール。
唐突な終わり方が、なんともアヴァンギャルド。
「2 H.B.」は、エレクトリック・ピアノをフィーチャーし、ホーンの多重録音を効果的に使ったロック・ナンバー。
同じフレーズの繰り返しが、強力なグルーヴを作り出して行く。ブリティッシュ・ロックならではの、陰影に富んだ音作りである。
「ボブ」は、メドレー形式のナンバー。
サックスをフィーチャーした重厚なサウンドの前半パートは、明らかにクリムゾンのジャズ・ロックを意識したスタイル。
中間部のサウンド・エフェクトっぽい展開は、やはりクリムゾンのお家芸だな。
そして後半は、同時期にブレイクした、デイヴィッド・ボウイのサウンドを彷彿とさせるスタイル。60年代のビートを発展させたサイケデリック・ロック。
最後はそのふたつが融合して、大団円を迎える。
プログレであると同時にグラム・ロックでもあるという、ロキシーの二面性がはっきりと判る一曲だ。
「チャンス・ミーティング」はピアノをフィーチャーしたバラード。
か細いフェリーの歌声の背後では、ギターやシンセ、サックスが咆哮するという、シュールなサウンド。
「ウッド・ユー・ビリーヴ?」は、ロックンロール・スタイルのナンバー。
冒頭部のフェリーの繊細な歌いぶりに、ジョン・レノンの強い影響が見られる。後に彼がレノンの「ジェラス・ガイ」をカバーしたことで判るように、レノンもまたフェリーの目標とするシンガーだったのだ。
マンザネラもここではチャック・ベリーに変身する。アルバム中では最もアメリカン・ポップ寄りの曲調で、聴きやすい。
「シー・ブリーズィズ」はマッケイのオーボエ演奏が印象的な、静謐なバラードとして始まる。で、そのままでは終わらないのがロキシー・クオリティ。
リズム隊が加わり、マンザネラのノイジーなギターが暴れまくる中間部。
そして再び、静かな展開に戻って終了。
静と動のコントラストによって、曲に奥行きと味わいが生まれていると思う。
ラストの「ビターズ・エンド」は、ドゥワップ・コーラスをフィーチャーした、ロッカ・バラード。
決して音を詰め込まず、楽器もオフ気味に録音することによって全体的にスカスカな感じに仕上げているのが、いかにもロキシー流だ。人を食った終わり方もいい。
必ずどこかキッチュな要素を残して、ただのウェルメイドなポピュラー・ミュージックとは、一線を画していく。
そういう独自のスタイルに、ブリティッシュ・バンドならではのこだわりを感じるね。
こんなクセの強いバンドのアルバムでも、チャート10位になってしまうんだから、英国リスナーの懐は広い。さすが、クリムゾンを熱く支持しただけあるな。
歌にしても演奏にしても、さほど上手いとはいえないだろうが、その発想のユニークさ、ハイブリッドなスタイルの創造において類例を見ないバンドが、このロキシー・ミュージック。
木に竹を継ぐような真似をして、しかもそれがただの奇妙な試みに終わらず、新しい魅力ある音楽になるなんてワザ、どんなバンドにでも出来ることではない。
後に「アヴァロン」で商業的には大成功を収めたロキシーであるが、そこで完成されたスタイルよりも、デビュー当時の混沌としたサウンドの方が百倍面白いな、筆者としては。
<独断評価>★★★☆
英国のロック・バンド、ロキシー・ミュージックのデビュー・アルバム。72年リリース。ピート・シンフィールドによるプロデュース。
ロキシー・ミュージック(以下ロキシー)はボーカルのブライアン・フェリーを中心に、71年に結成。
メジャー・デビューのきっかけは、フェリーがキング・クリムゾンの、グレッグ・レイクに代わる新ボーカリストのオーディションに応募したことだった。
新ボーカルはフェリーでなくボズ・バレル(後のバッド・カンパニーのメンバー)に決まったが、フェリーに特別な才能を感じたロバート・フリップとビート・シンフィールドが、所属のEGレーベルに彼を紹介したのである。
初期メンバーを入れ替えてレコード・デビューを果たしたロキシーのメンバーは、フェリーのほかギターのフィル・マンザネラ、ベースのグレアム・シンブソン、サックスのアンディ・マッケイ、シンセサイザーのブライアン・イーノ、ドラムスのボール・トンプソンの6人。
当初の曲は作詞・作曲ともにすべてフェリーが手がけて、アレンジは各メンバーが行なっている。
オープニングの「リ-メイク・リ-モデル」は、ジャム・セッション的なノリのビート・ナンバー。
各メンバーの即興演奏をベースにして、それにフェリーのシャウトが乗っかっていく。
ビートルズの某曲のリフが脈絡もなく飛び出したりして、思わず笑いを誘う。キング・クリムゾン風のホーンもちらっと聴こえる。
マンザネラのファズを効かせたノイジーなギターが、この曲の混沌としたイメージを作り上げている。
「レディトロン」はイーノによる深遠なシンセ・サウンドから始まるナンバー。循環コードを用いた、どこかしらクリームの「ホワイト・ルーム」っぽい曲調。
数回にわたるリズム・チェンジのセンス、ギターとサックスのハーモニーなどに、キング・クリムゾンの強い影響が見てとれる。
この曲を聴くと、ロキシー=プログレッシブ・ロック・バンドなんだなと感じざるを得ない。
あるいは、アート・ロックともいえる。
ポピュラー・ミュージックのフォーマットをギリギリふまえながらも、あえて分かりやすさを追求せず、芸術としての表現の方を優先しているのだ。
「イフ・ゼア・イズ・サムシング」はこちらも循環コードを用いたバラード・ナンバー。
冒頭を聴いただけでは、まるで米国バンドみたいなサウンド。ピアノをフィーチャーしていることもあり、ザ・バンドを想起した人もいるはず。ギター・ソロもロバートソンっぽい。
しかし、それも途中までだ。
後半からのフェリーのやや不安定で神経症的なボーカル、憂愁を帯びた独特のメロディ・ラインは明らかに米国のロックとは異質のものである。
そして、この曲でもシンセとギターの音色が、サウンドの質感の決め手となっている。
「ヴァージニア・プレイン」はアメリカ盤のみ収録の、短いナンバー。
表面的には明るくて陽気な、でも本質的にはカタルシスのまるきりない、ロキシーらしい空虚なロックンロール。
唐突な終わり方が、なんともアヴァンギャルド。
「2 H.B.」は、エレクトリック・ピアノをフィーチャーし、ホーンの多重録音を効果的に使ったロック・ナンバー。
同じフレーズの繰り返しが、強力なグルーヴを作り出して行く。ブリティッシュ・ロックならではの、陰影に富んだ音作りである。
「ボブ」は、メドレー形式のナンバー。
サックスをフィーチャーした重厚なサウンドの前半パートは、明らかにクリムゾンのジャズ・ロックを意識したスタイル。
中間部のサウンド・エフェクトっぽい展開は、やはりクリムゾンのお家芸だな。
そして後半は、同時期にブレイクした、デイヴィッド・ボウイのサウンドを彷彿とさせるスタイル。60年代のビートを発展させたサイケデリック・ロック。
最後はそのふたつが融合して、大団円を迎える。
プログレであると同時にグラム・ロックでもあるという、ロキシーの二面性がはっきりと判る一曲だ。
「チャンス・ミーティング」はピアノをフィーチャーしたバラード。
か細いフェリーの歌声の背後では、ギターやシンセ、サックスが咆哮するという、シュールなサウンド。
「ウッド・ユー・ビリーヴ?」は、ロックンロール・スタイルのナンバー。
冒頭部のフェリーの繊細な歌いぶりに、ジョン・レノンの強い影響が見られる。後に彼がレノンの「ジェラス・ガイ」をカバーしたことで判るように、レノンもまたフェリーの目標とするシンガーだったのだ。
マンザネラもここではチャック・ベリーに変身する。アルバム中では最もアメリカン・ポップ寄りの曲調で、聴きやすい。
「シー・ブリーズィズ」はマッケイのオーボエ演奏が印象的な、静謐なバラードとして始まる。で、そのままでは終わらないのがロキシー・クオリティ。
リズム隊が加わり、マンザネラのノイジーなギターが暴れまくる中間部。
そして再び、静かな展開に戻って終了。
静と動のコントラストによって、曲に奥行きと味わいが生まれていると思う。
ラストの「ビターズ・エンド」は、ドゥワップ・コーラスをフィーチャーした、ロッカ・バラード。
決して音を詰め込まず、楽器もオフ気味に録音することによって全体的にスカスカな感じに仕上げているのが、いかにもロキシー流だ。人を食った終わり方もいい。
必ずどこかキッチュな要素を残して、ただのウェルメイドなポピュラー・ミュージックとは、一線を画していく。
そういう独自のスタイルに、ブリティッシュ・バンドならではのこだわりを感じるね。
こんなクセの強いバンドのアルバムでも、チャート10位になってしまうんだから、英国リスナーの懐は広い。さすが、クリムゾンを熱く支持しただけあるな。
歌にしても演奏にしても、さほど上手いとはいえないだろうが、その発想のユニークさ、ハイブリッドなスタイルの創造において類例を見ないバンドが、このロキシー・ミュージック。
木に竹を継ぐような真似をして、しかもそれがただの奇妙な試みに終わらず、新しい魅力ある音楽になるなんてワザ、どんなバンドにでも出来ることではない。
後に「アヴァロン」で商業的には大成功を収めたロキシーであるが、そこで完成されたスタイルよりも、デビュー当時の混沌としたサウンドの方が百倍面白いな、筆者としては。
<独断評価>★★★☆