#255 レッド・ツェッぺリン「We're Gonna Groove」(Coda/Swan Song)
レッド・ツェッぺリン解散後、82年にリリースされた未発表音源集より。ベン・E・キング、ジェイムズ・バーサの作品。
このアルバムについては筆者自身、9年ほど前に「一日一枚」でも取り上げているのだが、きょうの一曲についてどうしても書きたくなったので、再度ピックアップ。
ツェッぺリンは各アルバムのレコーディングには、LPに収録可能な曲より少し多めに候補曲を準備していたが、この「We're Gonna Groove」もそのひとつだった。69年夏、彼らのセカンド・アルバムのレコーディング時には既に用意されていたようだが、後にサードに入る「Since I've Been Loving You」と同様、実際にはレコーディングに至らなかった。
セカンドアルバム発売後の、70年1月にようやく録音。しかし、結局、サード・アルバムにも収録されることはなかった。
が、それはツェッぺリンのメンバーたちが、この曲を気に入ってなかったからではない。むしろ逆で、70年1月から 4月までは、ライブのオープニング曲として常に演奏されていた。その頃のライブを聴いた、あるいはブートレッグを持っているZEPファンには、おなじみの曲だったのである。
その後、サード・アルバムのレコーディングに入ったあたりから、皆さんご存じの「Immigrant Song」が、この曲にとってかわってオープニング曲となる。
というわけで、この「We're Gonna Groove」は「幻のライブ定番曲」として長らくブートでの演奏のみが知られていたのだ。
12年の歳月を経て、この曲はようやく日の目を見ることになる。未発表曲/アウトテイク集のトップを飾るかたちで。
70年頃よりこの曲を知り、愛好してきたファンにとっては、なんともいえぬ感慨があったのではなかろうか。
さてこの曲は、冒頭にも記したように、往年の人気R&Bシンガー、べン・E・キングのナンバーだ。
先だっても「Young Boy Blues」を取り上げたキングだが、日本ではどうしても、ドリフターズ時代や「Stand By Me」の大ヒットのイメージがつきまといがちの人で、「メロディアスなバラードを得意とするシンガー」ということになっている。
もちろんそれも間違いではないが、キングはそれにとどまらない、結構引き出しの多いシンガーで、ジャズィな曲、ファンキーな曲も得意としていた。
「We're Gonna Groove」も、そういうキングの多面性を示す一曲であり、そこにはおなじみのバラード・シンガーの面影はない。
この曲は63年のオムニバスライブ盤「Apollo Saturday Night」でのライブが特に有名なので、それを聴いていただこう。アルバムタイトル通り、ニューヨーク・ハーレムのアポロ・シアターでの録音で、6組の人気アーティストが登場する。
キングによる「We're Gonna Groove」のオリジナルは「Groovin'」というタイトル。ホーンセクションも含むバンドを従えたその演奏は、歌のメロディこそ同じものの、サウンドはかなりZEPと違って聴こえる。
一番違うのは、ギターのカッティング、そしてドラムのビートだろう。年代による録音技術の進歩を割り引いて聴いてみても、グルーヴがまったく別のものになっている。7年という、実年数以上の隔たりが、そこにはある。
「Groovin'」という曲はあくまでも素材に過ぎず、ZEPの4人は「We're Gonna Groove」というまったく新しい曲をそこに創出したといっていい。タイトルを変えたのも(ラスカルズの「Groovin'」と混同されないようにという配慮もあるのだろうが)、これは別の曲ですよという主張なのだと思う。
ZEPはいわゆるハードロック/ヘビーメタルのパイオニアというふうに言われるバンドではあるが、そのサウンドはむしろソウル・ミュージック、殊にサザン・ソウルの流れを濃く引き継いでいる。筆者に言わせると「ホーンを使わないサザン・ソウル」であるとすら思う。たとえば、「Celebration Day」のサビとか、モロにそうではないだろうか。
ベン・E・キングのレパートリーとしてはどちらかといえば傍流で、ハードで辛口な「Groovin'」をチョイスしたZEPのセンスには、唸らざるをえない。
プラントの高音ボーカルは、まだ喉に変調をきたしていなかった頃で、絶好調。ペイジのリズムギターも切れ味抜群だし、ジョーンズのタイトなベース、ボーナムのドラムスの暴れ具合、いずれも全盛期のパワーの凄まじさを十分に感じさせるものだ。
アメリカの白人たちの絶大な支持を得てトップに躍り出たZEPだったが、彼らがロックとして聴いていたそのサウンドは、ブラック・ミュージック、とくにサザン・ソウルなしには誕生しえなかったものであった。白人たちはZEPのいざないによって、知らず知らずのうちに、もっともディープな音楽の洗礼を受けていたのだと言える。
エルヴィス・プレスリーが黒人ブルースなしに彼の音楽を生み出しえなかったように、ZEPもまた、ソウル・ミュージックの申し子なのだ。
先達ベン・E・キングへの深い敬意、そしてZEPなりの大いなるオリジナリティをこのふたつの音源から感じとってほしい。
レッド・ツェッぺリン解散後、82年にリリースされた未発表音源集より。ベン・E・キング、ジェイムズ・バーサの作品。
このアルバムについては筆者自身、9年ほど前に「一日一枚」でも取り上げているのだが、きょうの一曲についてどうしても書きたくなったので、再度ピックアップ。
ツェッぺリンは各アルバムのレコーディングには、LPに収録可能な曲より少し多めに候補曲を準備していたが、この「We're Gonna Groove」もそのひとつだった。69年夏、彼らのセカンド・アルバムのレコーディング時には既に用意されていたようだが、後にサードに入る「Since I've Been Loving You」と同様、実際にはレコーディングに至らなかった。
セカンドアルバム発売後の、70年1月にようやく録音。しかし、結局、サード・アルバムにも収録されることはなかった。
が、それはツェッぺリンのメンバーたちが、この曲を気に入ってなかったからではない。むしろ逆で、70年1月から 4月までは、ライブのオープニング曲として常に演奏されていた。その頃のライブを聴いた、あるいはブートレッグを持っているZEPファンには、おなじみの曲だったのである。
その後、サード・アルバムのレコーディングに入ったあたりから、皆さんご存じの「Immigrant Song」が、この曲にとってかわってオープニング曲となる。
というわけで、この「We're Gonna Groove」は「幻のライブ定番曲」として長らくブートでの演奏のみが知られていたのだ。
12年の歳月を経て、この曲はようやく日の目を見ることになる。未発表曲/アウトテイク集のトップを飾るかたちで。
70年頃よりこの曲を知り、愛好してきたファンにとっては、なんともいえぬ感慨があったのではなかろうか。
さてこの曲は、冒頭にも記したように、往年の人気R&Bシンガー、べン・E・キングのナンバーだ。
先だっても「Young Boy Blues」を取り上げたキングだが、日本ではどうしても、ドリフターズ時代や「Stand By Me」の大ヒットのイメージがつきまといがちの人で、「メロディアスなバラードを得意とするシンガー」ということになっている。
もちろんそれも間違いではないが、キングはそれにとどまらない、結構引き出しの多いシンガーで、ジャズィな曲、ファンキーな曲も得意としていた。
「We're Gonna Groove」も、そういうキングの多面性を示す一曲であり、そこにはおなじみのバラード・シンガーの面影はない。
この曲は63年のオムニバスライブ盤「Apollo Saturday Night」でのライブが特に有名なので、それを聴いていただこう。アルバムタイトル通り、ニューヨーク・ハーレムのアポロ・シアターでの録音で、6組の人気アーティストが登場する。
キングによる「We're Gonna Groove」のオリジナルは「Groovin'」というタイトル。ホーンセクションも含むバンドを従えたその演奏は、歌のメロディこそ同じものの、サウンドはかなりZEPと違って聴こえる。
一番違うのは、ギターのカッティング、そしてドラムのビートだろう。年代による録音技術の進歩を割り引いて聴いてみても、グルーヴがまったく別のものになっている。7年という、実年数以上の隔たりが、そこにはある。
「Groovin'」という曲はあくまでも素材に過ぎず、ZEPの4人は「We're Gonna Groove」というまったく新しい曲をそこに創出したといっていい。タイトルを変えたのも(ラスカルズの「Groovin'」と混同されないようにという配慮もあるのだろうが)、これは別の曲ですよという主張なのだと思う。
ZEPはいわゆるハードロック/ヘビーメタルのパイオニアというふうに言われるバンドではあるが、そのサウンドはむしろソウル・ミュージック、殊にサザン・ソウルの流れを濃く引き継いでいる。筆者に言わせると「ホーンを使わないサザン・ソウル」であるとすら思う。たとえば、「Celebration Day」のサビとか、モロにそうではないだろうか。
ベン・E・キングのレパートリーとしてはどちらかといえば傍流で、ハードで辛口な「Groovin'」をチョイスしたZEPのセンスには、唸らざるをえない。
プラントの高音ボーカルは、まだ喉に変調をきたしていなかった頃で、絶好調。ペイジのリズムギターも切れ味抜群だし、ジョーンズのタイトなベース、ボーナムのドラムスの暴れ具合、いずれも全盛期のパワーの凄まじさを十分に感じさせるものだ。
アメリカの白人たちの絶大な支持を得てトップに躍り出たZEPだったが、彼らがロックとして聴いていたそのサウンドは、ブラック・ミュージック、とくにサザン・ソウルなしには誕生しえなかったものであった。白人たちはZEPのいざないによって、知らず知らずのうちに、もっともディープな音楽の洗礼を受けていたのだと言える。
エルヴィス・プレスリーが黒人ブルースなしに彼の音楽を生み出しえなかったように、ZEPもまた、ソウル・ミュージックの申し子なのだ。
先達ベン・E・キングへの深い敬意、そしてZEPなりの大いなるオリジナリティをこのふたつの音源から感じとってほしい。
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