2023年2月12日(日)
#452 DEF LEPPARD「ADRENALIZE」(Mercury 314 512 185-2)
英国のロック・バンド、デフ・レパードの5枚目のアルバム。92年リリース。彼ら自身とマイク・シプリーによるプロデュース。
80年にレコード・デビューしたデフ・レパード(以下レパード)は83年のサード・アルバム「炎のターゲット(Pyromania)」で世界的に、というか米国で大ブレイクした。
同アルバムは全米で1000万枚、続く「ヒステリア」(87年)は1200万枚も売れたという。なんかもう、想像を絶する数字だな。
なんでそんなに売れたのかは、いくつか理由があると思うが、レパードの生み出すパワフル、ハードでありながらポップなハード・ロックが、いかにも米国人好みだったということが一番大きいんだろうな。
それまでの英国バンドに多く見られた「陰キャ」な部分を感じさせない明るさが、レパードにはあった。
米国のバンドといわれても、まったく違和感がない。
米国人はいちいち「このバンドは英国出身か」などと確認したりせず、自分の好みに合えば自国のバンドだと思うからね。
ちょうど昔、日本のメーカーであるソニーを、自国のトップメーカーと勘違いしていたように。
かくしてトップ・バンドにおどり出たレパードだったが、彼らにも「闇」はあった。
リズムギターのスティーヴ・クラークが心を病み、重度のアルコール依存症に陥っていたのだ。
そのため、当アルバムの制作は困難を極めることになった。クラークの療養のため、彼に半年間の休暇を与えることとともなった。
しかし残念なことに、回復することなく91年初頭にクラークは亡くなる。
アルバム制作作業は、一からやり直しになった。残された4人で。
難産の末、ようやく完成したのは翌92年3月。
アルバム制作にはタッチしていないが、新しいギタリスト、ヴィヴィアン・キャンベルも加入し、新メンバーでの活動を再開することになった。
5年ぶりのアルバムは全米、全英で1位を獲得、現在までに700万枚以上を売り上げるヒットとなった。
ロックの流行がハード・ロック、メタルから次第にオルタナへと移行していった時代背景を考えると、これは十分な成功と言えた。
オープニングから聴いていこう。
「レッツ・ゲット・ロックド」は派手なコーラスから始まるミディアム・テンポのハード・ロック。
看板ボーカル、ジョー・エリオットの激しいシャウト、そしてそれを盛り立てる分厚いコーラス。
この強力無比なボーカル・サウンドこそが、レパードのウリなのだ。
70年代はリード・ボーカルにほぼ歌を任せきるタイプのハード・ロック・バンドが多かったが、80年代はそれでは通らない。コーラスも出来なきゃトップには立てないのだ。例えば、ボン・ジョヴィがそうだ。
「ヘヴン・イズ」はコーラス・サウンド、ギター・サウンドが見事に融合したロック・ナンバー。聴いていて、実に心地いい。
「メイク・ラヴ・ライク・ア・マン」は、歯切れのいいギター、ノリのいいビート、掛け合いコーラスと三拍子揃ったナンバー。ライブでも盛り上がりそう。
「トゥナイト」は、アコースティック・ギターをフィーチャーしたバラード。シャウト・スタイルとはまた違った、エリオットの情感あふれる歌が味わえる。
「ホワイト・ライトニング」はフィル・コリンの伸びやかなギター・プレイが堪能出来る、ドラマティックなナンバー。そう、レパードのもうひとつの看板は、このコリンのギターなのだ。
ハード・ロック、ヘビーメタルを志す若いギタリストすべてのお手本とも言えそうな、バランスのとれたプレイ・スタイルは、聴いていて安心できる。
「スタンド・アップ」はゆったりとしたテンポのロック・ナンバー。抑えめのボーカルとコーラス、きめの細かいバンド・サウンド。
レパードも押し相撲だけで勝負しているわけじゃない。こういう小技も使えるのだと分かるナンバー。
「パーソナル・プロパティ」はテンポの速いロックンロール・ナンバー。エリオットのボーカルも、コリンのギターもノリまくっている。
「サムワン・ソー・バッド」はスロー・バラード。ギターの響きがまことに美しく、ハイトーンのコーラスも見事だ。
レコーディングの技術も、もちろんレパードのサウンドを高める上で、極めて大きな役割を果たしている。共同プロデューサーとして、エンジニア出身のマイク・シプリーを招んだのも納得がいく。
「アイ・ウォナ・タッチ・ユー」は、のっけからパワフルなコーラスが強襲するナンバー。これぞレパードならではのサウンドだ。
あまりにパーフェクトなコーラスなので、これをライブで再現するのは、かなり難しそうだなと思ってしまう。
それを意識しているのかいないのか、レパードは40年余のキャリアでライブ盤をわずか2枚しか出していない。
おそらくライブの現場では、大観衆にシング・アロングさせて、自分たちのコーラスを補うような形をとっているのではないかな。
ラストの「ティア・イット・ダウン」は、ギター・サウンドを前面に押し出したハード・ロック。
亡きクラークも、作曲者として名を連ねている。
「ゲット・レディ!」というコールに、思わず身体を揺らしながら呼応してしまうね。
ライブでぜひ、聴きたいナンバーである。
デフ・レパードというバンドは現在も92年のラインナップのまま、5人で活動を続けている。
昨年には7年ぶりに新アルバム「Diamond Star Halos」も発表した。
その結束力の強さは、高く評価していいだろう。
そして新作のサウンドは、過去のスタイルを大きく変えることなく、いい意味でのマンネリズムを貫いている。
かつては既成の音楽を否定して若者の心をつかんだハード・ロック、ヘビーメタルも、いまや一種の伝統芸能として、型を崩すことなく継承されていく、そんな時代に入ったのかもしれない。
<独断評価>★★★☆
英国のロック・バンド、デフ・レパードの5枚目のアルバム。92年リリース。彼ら自身とマイク・シプリーによるプロデュース。
80年にレコード・デビューしたデフ・レパード(以下レパード)は83年のサード・アルバム「炎のターゲット(Pyromania)」で世界的に、というか米国で大ブレイクした。
同アルバムは全米で1000万枚、続く「ヒステリア」(87年)は1200万枚も売れたという。なんかもう、想像を絶する数字だな。
なんでそんなに売れたのかは、いくつか理由があると思うが、レパードの生み出すパワフル、ハードでありながらポップなハード・ロックが、いかにも米国人好みだったということが一番大きいんだろうな。
それまでの英国バンドに多く見られた「陰キャ」な部分を感じさせない明るさが、レパードにはあった。
米国のバンドといわれても、まったく違和感がない。
米国人はいちいち「このバンドは英国出身か」などと確認したりせず、自分の好みに合えば自国のバンドだと思うからね。
ちょうど昔、日本のメーカーであるソニーを、自国のトップメーカーと勘違いしていたように。
かくしてトップ・バンドにおどり出たレパードだったが、彼らにも「闇」はあった。
リズムギターのスティーヴ・クラークが心を病み、重度のアルコール依存症に陥っていたのだ。
そのため、当アルバムの制作は困難を極めることになった。クラークの療養のため、彼に半年間の休暇を与えることとともなった。
しかし残念なことに、回復することなく91年初頭にクラークは亡くなる。
アルバム制作作業は、一からやり直しになった。残された4人で。
難産の末、ようやく完成したのは翌92年3月。
アルバム制作にはタッチしていないが、新しいギタリスト、ヴィヴィアン・キャンベルも加入し、新メンバーでの活動を再開することになった。
5年ぶりのアルバムは全米、全英で1位を獲得、現在までに700万枚以上を売り上げるヒットとなった。
ロックの流行がハード・ロック、メタルから次第にオルタナへと移行していった時代背景を考えると、これは十分な成功と言えた。
オープニングから聴いていこう。
「レッツ・ゲット・ロックド」は派手なコーラスから始まるミディアム・テンポのハード・ロック。
看板ボーカル、ジョー・エリオットの激しいシャウト、そしてそれを盛り立てる分厚いコーラス。
この強力無比なボーカル・サウンドこそが、レパードのウリなのだ。
70年代はリード・ボーカルにほぼ歌を任せきるタイプのハード・ロック・バンドが多かったが、80年代はそれでは通らない。コーラスも出来なきゃトップには立てないのだ。例えば、ボン・ジョヴィがそうだ。
「ヘヴン・イズ」はコーラス・サウンド、ギター・サウンドが見事に融合したロック・ナンバー。聴いていて、実に心地いい。
「メイク・ラヴ・ライク・ア・マン」は、歯切れのいいギター、ノリのいいビート、掛け合いコーラスと三拍子揃ったナンバー。ライブでも盛り上がりそう。
「トゥナイト」は、アコースティック・ギターをフィーチャーしたバラード。シャウト・スタイルとはまた違った、エリオットの情感あふれる歌が味わえる。
「ホワイト・ライトニング」はフィル・コリンの伸びやかなギター・プレイが堪能出来る、ドラマティックなナンバー。そう、レパードのもうひとつの看板は、このコリンのギターなのだ。
ハード・ロック、ヘビーメタルを志す若いギタリストすべてのお手本とも言えそうな、バランスのとれたプレイ・スタイルは、聴いていて安心できる。
「スタンド・アップ」はゆったりとしたテンポのロック・ナンバー。抑えめのボーカルとコーラス、きめの細かいバンド・サウンド。
レパードも押し相撲だけで勝負しているわけじゃない。こういう小技も使えるのだと分かるナンバー。
「パーソナル・プロパティ」はテンポの速いロックンロール・ナンバー。エリオットのボーカルも、コリンのギターもノリまくっている。
「サムワン・ソー・バッド」はスロー・バラード。ギターの響きがまことに美しく、ハイトーンのコーラスも見事だ。
レコーディングの技術も、もちろんレパードのサウンドを高める上で、極めて大きな役割を果たしている。共同プロデューサーとして、エンジニア出身のマイク・シプリーを招んだのも納得がいく。
「アイ・ウォナ・タッチ・ユー」は、のっけからパワフルなコーラスが強襲するナンバー。これぞレパードならではのサウンドだ。
あまりにパーフェクトなコーラスなので、これをライブで再現するのは、かなり難しそうだなと思ってしまう。
それを意識しているのかいないのか、レパードは40年余のキャリアでライブ盤をわずか2枚しか出していない。
おそらくライブの現場では、大観衆にシング・アロングさせて、自分たちのコーラスを補うような形をとっているのではないかな。
ラストの「ティア・イット・ダウン」は、ギター・サウンドを前面に押し出したハード・ロック。
亡きクラークも、作曲者として名を連ねている。
「ゲット・レディ!」というコールに、思わず身体を揺らしながら呼応してしまうね。
ライブでぜひ、聴きたいナンバーである。
デフ・レパードというバンドは現在も92年のラインナップのまま、5人で活動を続けている。
昨年には7年ぶりに新アルバム「Diamond Star Halos」も発表した。
その結束力の強さは、高く評価していいだろう。
そして新作のサウンドは、過去のスタイルを大きく変えることなく、いい意味でのマンネリズムを貫いている。
かつては既成の音楽を否定して若者の心をつかんだハード・ロック、ヘビーメタルも、いまや一種の伝統芸能として、型を崩すことなく継承されていく、そんな時代に入ったのかもしれない。
<独断評価>★★★☆