2002年2月23日(土)
クリーム「カラフル・クリーム」(ポリドール POCP-2262)
1.STRANGE BREW(ストレンジ・ブルー)
2.SUNSHINE OF YOUR LOVE(サンシャイン・ラヴ)
3.WORLD OF PAIN(苦しみの世界)
4.DANCE THE NIGHT AWAY(夜通し踊ろう)
5.BLUE CONDITION(ブルー・コンディション)
6.TALES OF BRAVE ULYSSES(英雄ユリシーズ)
7.SWLABR(スーラバー)
8.WE'RE GOING WRONG(間違いそうだ)
9.OUTSIDE WOMAN BLUES(アウトサイド・ウーマン・ブルース)
10.TAKE IT BACK(テイク・イット・バック)
11.MOTHER'S LAMENT(マザーズ・ラメント)
ご存じクリームのセカンド・アルバム。「またクリームかいな」とお思いでしょうが、やっぱりいいものはいいので、再三ながら取上げちゃいます。
67年ニューヨーク録音、同年リリース。フェリックス・パッパラルディによるプロデュース。
スタックス系ソウル・サウンドの(1)、彼ら最大のヒット(2)という、ふたつのシングル曲からスタート。
ともにクリームの代表曲というだけでなく、ロック・クラシックとしての地位をも勝ち得た名曲だといえる。
以降の9曲は、それぞれに個性的で、実験的なナンバーが続く。
(3)は、パッパラルディと妻ゲイルの作品。ギターにワウ・ペダルを使用して、サウンドにカラフルな味付けをしている。
クラプトンが本格的にワウを使い出したのは、このアルバムからといえそうだ。
当時彼の使っていたメイン・ギターは、63年製のギブソンSGスタンダード。
下の写真でもご覧いただけるように、当時の最新流行、サイケデリックなペイントを施したモデルである。
クラプトンはこれを、マーシャルのアンプをフルヴォリュームにして(レコーディングでも!)鳴らしていたという。
まさに、ハードロック誕生!の瞬間である。
ファースト・アルバムでは、まだブルースのカバーものが多く、サウンドも「少しラウドなブルース・ロック」の域を出なかったが、この一作でオリジナル中心となり、サイケなファッションを取り入れることで、「最先端のロック・バンド」の座へ踊り出た、ということだ。
もうひとつ注目すべきなのは、この曲でいわゆる「ウーマン・トーン」が多用されていること。ギターのトーンコントロールを0まで絞り中低域を強調した特徴ある音は、クラプトンの代名詞ともなっているくらいだ。
(4)は、クラプトンが12弦エレキ・ギターを弾いた、クリームでは異色のフォーク・ロック風ナンバー。
「ミスター・タンブリン・マン」を短調におきかえたような雰囲気がある。
これまたパッパラルディ夫妻の作品で、彼らの曲にはほとんどブルース色は感じられない。
ファルセットによる二声コーラスが、なんとも摩訶不思議なムードをかもし出している。
もちろん、ステージでは、この手の曲はまったく演奏しなかったようなので、スタジオでの純然たる「実験」という感じだ。
(5)はベイカーの作品。彼の書く曲は、いわくいいがたい、つかみどころのないものが多いのだが、これも例にもれずちょっと風変わりである。歌もベイカーが担当。
ジャズともロックともポップスとも表現しづらい、一種独特、まったりとした世界が展開される。
(6)では「オデュッセイア」をモチーフに、神話的世界を歌う。曲はクラプトン、詞はクラプトンのルームメイトだったというデザイナー、マーティン・シャープ。
ワウを効果的に使ったこの曲がプロトタイプとなって、名曲「ホワイト・ルーム」へと進化していったということは既に述べたとおりである。曲作りに関しては奥手だったクラプトンも、この曲あたりがきっかけで手を染めるようになる。
ちなみに、シャープはこのアルバムの印象的なジャケットのデザインも手がけている。
(7)は奇妙なタイトルだが、一種のナンセンスな言葉遊びで、「She Walks Like A Berded Rainbow.」の頭文字をとったそーな。ブルース=ブラウン・コンビの作品。
その一文から察せられるように、歌詞に意味はなきに等しい。
何か意味を見出そうとするなら、「Rainbow Colors」に、サイケデリック・ロックの精神を象徴させたというところか。
「Lucy in the Sky…」を作ったビートルズをはじめとする、英国のロックグループ達が好んでやった「お遊び」のひとつといえそうだ。
サウンド的には、ウーマン・トーンがガンガン使われ、オーバーダブによるツイン・リードが聴かれるので、ギタリストは要チェック。
(8)はブルースの作品。スロー・テンポで神秘的な曲調のナンバー。ブルースのファルセットが印象的だ。
この曲でもウーマン・トーンによるクラプトンのソロが聴かれる。
(9)はスタンダード・ブルースを彼ら流にアレンジしたもの。変則リズムに乗って聴かれる、3度のツイン・ギター・ハーモニーが実にカッコいい。
(10)はブルース=ブラウン・コンビによるシャッフル・ビートのブルース。ファースト・アルバムではよく聴かれた、ブルースお得意のハープは、この一曲でのみ聴ける。
が、進歩的なサイケデリック・サウンドが中心をしめるこのアルバムの中では、このダウン・ホームな音は、どことなく野暮ったく感じられる。
つまりは、それだけグループの音が短期間で「進化」したということの証明でもあろう。
(11)も、シャレでレコーディングしただけ、という感じの、ピアノをバックに歌われる古風なブリティッシュ・トラッド。
ま、こんなことも出来まっせという、ショーケース的な合唱曲である。
このように、ちょっと「寄り道」っぽい実験、古めかしくてピンとこない曲調のもののあるが、大半は当時では最先端のギター・サウンドがふんだんに聴ける一枚。
あまりに進歩的すぎて、日本あたりではごく一部のミュージシャンか、マニアックなリスナーにしか聴かれなかったが、今聴いてみるとほどよくポップで、ほどよくハード。
こんな「音」を67年初頭には既に作り出していた三人の才能、そしてそれを陰から盛り立てたプロデューサーのパッパラルディ、エンジニアのトム・ダウドの力量には、舌を巻かざるをえない。
無色透明なはずの「音」にも、さまざまな色を感じさせる、そういう「マジック」がこの一枚にはある。
その意味で、「カラフル・クリーム」とは、実に言いえて妙な邦題だ。
ぜひ、皆さんもこの一枚で、レインボウ・カラーの魔術の虜になっていただきたいものだ。