2005年8月21日(日)
#279 シュガー・ブルー「セカンド・ギア」(キングレコード/SEVEN SEAS KICP 426)
シュガー・ブルー、キングレコードでのセカンド・アルバム。94年リリース。シュガー・ブルー、牧野元昭ほかのプロデュース。
シュガー・ブルーといえば「ミス・ユー」、「ミス・ユー」といえばシュガー・ブルーである。49年NYC生まれの無名の黒人ハーピストを、一躍時代の寵児と変えたのは、このストーンズとの共演作にほかならない。
今ではハープ界の頂点に立った彼だが、ストーンズという目利きが存在しなかったら、いまだにNYCという街の片隅で地味に活動しているだけだったかもしれない。「出会い」というのは、いかに重要かってことやね。
さて、超絶技巧ハープで知られる彼の、もうひとつの顔、シンガーとしての側面も堪能出来るのが、この一枚。
「ハーピストの余技」というふうに片付けられないくらい、実に達者な歌を聴かせてくれる。
ちょっと低めで、落ち着いた雰囲気の声。これが派手なハープのプレイと好対照をなしていて、なんともシブい。
彼の音楽の原点は、もちろんブルースであるから、当然その手の曲もやっている。アルバム・トップの「リトル・レッド・ルースター」、それから「フーチー・クーチー・マン」の改作パロディともいうべき「グッチ・グッチ・マン」。
「ブルーパイン」ではブルース界の重鎮、パイントップ翁とも共演を果たしている。ルースでダルな歌声とハープが実にブルーズィな一曲である。
ラストの「お世辞と嘘」なんてのも、大木トオルあたりに通じるものがある、マイナー・ブルースだ。
でも、他の曲は非常にバラエティに富んでいる。ロックあり、ファンクあり、AOR系バラードあり、要するになんでもあり。
いずれの曲も、彼はハープだけでなく、ヴォーカルでも大活躍している。インスト、歌がちょうどいい比率でブレンドされている。
これが、この作品を平板・単調なものにせず、聴きやすい一枚にしているように思う。
というのは、ハープという楽器の、インストだけのアルバムというのは、正直最後まで聴き通すのがしんどいのである。いかに「完璧」を誇るシュガー・ブルーのテクニックをもってしても。
彼の歌は、彼のハープほどパーフェクトではないにせよ、十分一般リスナーをも説得するだけの水準に達している。むこうのミュージシャンは(ギタ-だけ、ハープだけみたいな)「一芸馬鹿」でなく、いくつものパートをこなせる人が多いやね。さすがだと思う。
その人間くさい歌を適宜織り交ぜることで、テクニック一辺倒の音楽になることから、まぬがれているのだと思う。
さて、肝心のシュガー・ブルーのハープ演奏についてなのだが、筆者個人としては、持てるテクニックをめいっぱい誇示したような印象の曲は、さほど好きになれない。たとえば「リトル・レッド・ルースター」のアンプリファイばりばりな音とか、聴いててトゥー・マッチな感じがする。
たしかにハープのすべての音をフルに駆使し、クロマチックなど複数種のハープも吹きこなし、最高の速度で吹いているのは「スゲエ」と思うのだが、それは「プロ」として出来て当たり前のことという気がする。そういうアクロバティックな演奏で度肝を抜くだけが「音楽」じゃない。
重要なのは、いかに総体として「いい音楽」を作り上げるかだ。
その意味で、変に技巧のアピールに走り過ぎず、バランスよくまとまっているのは、リフ中心のHR/HM調ナンバー「シー」、ロングトーンの響きが実に美しい「リッスン・ベイビー」、極力抑えめのプレイに終始した「ブルーパイン」あたりかな。「旋風」もトリッキーなプレイが続くわりには、あまり気にならないのは、派手なアレンジとうまく調和しているためか。
基本はブルース、その上にロックなどのモダンな味を加えて、極上の音料理を提供するシュガ-・ブルー。
大物アーティストとの客演でばかり注目されている彼だが、そのソロ盤もなかなかいけます。ぜひ一度ご賞味を。
<独断評価>★★★☆