NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#32 エルヴィス・プレスリー「リコンシダー・ベイビー」(RCA)

2021-12-13 04:26:00 | Weblog

2001年4月14日(土)



エルヴィス・プレスリー「リコンシダー・ベイビー」(RCA)

のっけから言ってしまうけど、これはひさびさの超おススメ盤。

キング・エルヴィスは黒人音楽をルーツとして世に出てきたが、彼が1956年から71年までの間にレコーディングしたブルース/R&Bの名曲12曲をコンパイルしたもの。彼の死後の85年発表。

ただの既発表曲の寄せ集めじゃあない、貴重な未発表音源や別テイクも収められている。

まずは、タイトル・チューン「リコンシダー・ベイビー」でスタート。これはもちろん、ローウェル・フルスン54年のヒットのカバー。

これがまた実にカッコいいんだな。シンプルなバックにのせて聴かせるエルヴィスのボーカルは、中低音を効かせたふだんの甘い歌声でなく、ハイトーン中心の切れ味鋭いものだ。

黒人ブルースマンのそれとはまるで違った、実にユニークなブルース・ボーカル。ジャカジャカとミディアム・ビートを刻む彼のアコギ・プレイもグー。

この1曲だけでも聴く価値ありという感じだが、他のナンバーも負けじといい。

「トゥモロー・ナイト」は、以前にこの「一日一枚」の、3月10日の項で紹介したロニー・ジョンスン最大のヒット。

曲調一転、ロニーばりの甘~くささやくようなバラードが楽しめる。女性向きかな。

「ソー・グラッド・ユー・アー・マイン」は、ロックン・ロールの父と呼ばれるアーサー・クルーダップの作品。

「ロックアルバムで聴くブルース」の「COSMO'S FACTORY」の項も参照していただきたいが、クルーダップはロイ・ブラウンあたりと並んで、デビュー当時のエルヴィスが最も愛聴していたアーティストのひとりだ。ビート感あふれる名曲を数多く書いている。

彼が最初にサン・レコードで録音した「ザッツ・オールライト」もクルーダップの曲だったということからも、入れ込みようがよくわかるだろう。

「ワン・ナイト・オブ・シン」は58年の同題のヒットとは別テイク。

「恋は激しく」は、サン・レコードの先輩歌手、ビリー・ザ・キッド・エマースンのカバー。

CCRもカバーしている「マイ・ベイビー・レフト・ミー」(56年のヒット)は、これまたクルーダップの作品。クレジットはないが、ジェイムズ・バートンとおぼしきギター・ソロが実にクールで、CCR版もこれをまんまパクったって感じである。

64年のヒット曲「ラビング・ユー・ベイビー」は、58年の先行テイクを収録。

「アイ・フィール・ソー・バッド」も、タイトなビート感覚が実にイカしたブルースだ。

「シー・シー・ライダー」のオリジナルを歌ったR&B歌手、チャック・ウィリス54年の作品と聞けば、納得である。

「横町を下って」は、サーチャーズのヒット「ラブ・ポーションNo.9」のオリジナルを歌った黒人グループ、クローヴァーズの作品。これまた、ブルーズィー。

「ハイ・ヒール・スニーカーズ」は、ワタシ的にはホセ・フェリシアーノのレパートリーというイメージが強いが、元をたどれば64年のトミー・タッカーのヒットがオリジナルとか。

「ストレンジャー・イン・マイ・オウン・ホーム・タウン」は名曲「プリーズ・センド・ミー・サムワン・トゥ・ラブ」を書いた、かのパーシー・メイフィールドのカバー。

エルヴィスのボーカルもご本家に負けず、哀愁に満ちていて、言うことなし。

ラストの「メリー・クリスマス・ベイビー」は、もちろんチャールズ・ブラウンでおなじみ、幾多のブルースマンによってカバーされてきたナンバーだ。tbのホトケ氏もお気に入りの名曲。

収められているのは、アルバム版、シングル版とも異なる、第三のヴァージョン。ここでも、きわめてディープで熱いエルヴィスならではのブルース・ワールドが7分以上にわたって展開される。これは、絶対聴くべし!

残念なことに、国内版CDは廃盤、輸入盤か中古で探すしかないようだが、足を棒にしてでも探す価値はある!と断言してしまおう。

そのくらい、ブルース・スピリッツの「真髄」のようなアルバムなのである。

20世紀を代表するシンガーのひとりでありながら、今ではパロディ、茶化しの対象としてしかクローズ・アップされることのないエルヴィスだが(西田敏行、東貴博のネタにされるのは気の毒!)、人気ではともかく、その実力を超えるシンガーはいまだに現れていないように思う。

もし、神が声を発するとしたら、それはさだめしエルヴィスの声だ、と誰かが言っていたように記憶しているが、彼の歌声こそ、まさに「神の歌声」なのだ。

カレントのもの、流行りのものしか聴かない、知らないガキんちょどもはこの際ほっといて、在りし日のエルヴィスを思いつつ、この一枚、ぜひ聴き込んでほしい。

肌色の白黒など超えた、「究極のブルース」がそこにあるから。



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