2003年5月19日(月)
#160 ザ・フー「フーズ・ネクスト」(ポリドール POCP-2336)
ザ・フー、6枚目のオリジナル・アルバム、71年リリース。
昨年6月、ベースのジョン・エントウィッスルが亡くなり、オリジナル・メンバーがふたりだけとなったザ・フー。
名プレイヤーたちがひとり欠け、ふたり欠けていくのは、実に淋しい限りだが、こうして昔のアルバムを引っ張り出して聴いていれば、彼らの絶頂期がすぐ目の前に蘇ってくるから、そう悲観的になる必要もないような気もする。
そのくらい、このアルバムでの四人のプレイは、エクセレント!なのだ。
<筆者の私的ベスト4>
4位「BEHIND BLUE EYES」
ギターのピート・タウンゼントの作品。例によって、ほとんどの曲は彼が手がけている。
メロディ・ライン、そしてアコースティック・ギターの響きがこの上もなく美しい、バラード・ナンバー。
で、このままアコギ・アレンジで終わるのかと思っていたら、後半はガラリ、ハードな曲調へと変わる。
このアレンジ、四人の歌唱・演奏が素晴らしいのはもちろんだが、さらにサウンドのクォリティを高めているのが、録音技術の高さだ。
グループとともにプロデュースにも加わっている、グリン・ジョーンズによる完璧な録音・ミキシングのおかげで、本アルバムはロック史上でも極めて高い評価を得ることが出来たのだと思う。
3位「MY WIFE」
ジョンの作品。本アルバム中、唯一ピート以外が書いたナンバーだ。クレイジーな妻に追いかけられ、悩まされる飲んだくれ亭主の歌。
筆者は、この曲の歌詞がなかなかユーモラスでユニークなのが気に入っている。まるでドタバタコメディ映画の一シーンのようで、笑える。
ジョンはこの「フーズ・ネクスト」の発表とほぼ同じころ、最初のソロ・アルバム「SMASH YOUR HEAD AGAINST THE WALL」もリリースしている。
トップ・グループのべーシストというポジションにいても、自分で曲を書き、そして歌いたいという欲求は断ちがたかったのだろう。
音楽的にはほぼピートの独擅場であるザ・フーを離れて、何種類もの楽器を巧みに操り、やりたいことを自由にやった結果、「SMASH~」は本盤に劣らぬ、完成度の高いアルバムに仕上がっている。
この「MY WIFE」もまた、ジョンのすぐれた才能を証明する一曲だと思う。カントリー・フレイバーの感じられるメロディ・ライン、ちょっと甲高いジョンのヴォーカルもいい。
ベースのみならず、ブラス、ピアノまで演奏する、彼のマルチ・プレイヤーぶりにも注目だ。
2位「BABA O'RILEY」
冒頭からいきなり始まる、シーケンサーを使用したシンセ・サウンド。前作までのザ・フーのイメージを塗り変える、新しい世界の始まりだ。
ロジャーのヴォーカルは、従来にもまして力強く、自信に満ち溢れているかのようだ。
激しいビートの洪水に、リスナーは飲み込まれ、酔い痴れる。
そしてダメ押しは、シンセ・サウンドに乗って自在に飛び回るヴァイオリン・ソロ。見事なまでの、躍動感。
これを聴けば、半端なプログレ・バンドなど、尻尾を巻いて逃げ出すだろう。アイデア、演奏ともに、申し分ない。
1位「WON'T GET FOOLED AGAIN」
邦題「無法の世界」で知られるシングル・ヒット。アルバム・ヴァージョンでは、シンセ・ソロなどがカットされずに収録されているので、8分半あまりの大作となっている。
ハードロック・バンドとしての実力は、すでに前作「ライヴ・アット・リーズ」(本コーナー、2001.1.13の項参照)で証明済みの彼らだったが、そのハードなロックン・ロールと、当時先端のシンセサイザー・サウンドを合体させ、進化させたのが本盤のサウンドであり、その最高傑作がこのナンバーだといえる。
ロジャーの野性、ピートの緻密な計算、ジョンの迫力、キースの感性、すべてがピークの状態でのパフォーマンス、こりゃ無敵だわな。
最後まで息をもつかせぬ、たとえ一秒たりともゆるがせにしない音作りは、もう、ひれ伏して崇め奉るほかない。
当時、ポスト・ビートルズの座をめぐって、ストーンズ、ZEP、そしてこのザ・フーが熾烈な競争を繰りひろげていたわけだが、71年度は、このアルバムが「ローリング・ストーン」誌で最高の評価を獲得、全英チャート一位にもつくなど、見事彼らに軍配が上がったのだった。
たしかに、このアルバムの完成度は、彼ら自身でさえ、その後凌ぐことが出来ないくらいだった。
曲、パフォーマンス、録音、どれをとっても超一級品の「フーズ・ネクスト」、これこそがロックの「奇蹟」に違いない。
<独断評価>★★★★★
2022年11月28日(月)(再投稿)
英国のロック・バンド、ザ・フーの5枚目のスタジオ・アルバム。71年リリース。
前年発表の「ライブ・アット・リーズ」が大ヒット(全英3位、全米4位)となり、次作への期待が高まっていた彼らが、満を持して世に問うたのがこの一枚だ。
ザ・フーが、かつてストーンズのプロデューサーを務めていたグリン・ジョンズと組んで共同プロデュース。
セールス結果は初の全英1位、そして全米4位と前作以上の大成功を収めている。
内容的には、ライブでは再現出来ないスタジオ録音ならではのきめ細かい、凝ったサウンド・ワークが詰まっていて、聴きごたえ十分である。
例えばオープニングの「ババ・オライリィ」。
シンセサイザー、シークエンサーのループ・プレイを上手く取り入れたサウンドは、これまでのフーにはない新たな世界を感じさせる。
ゲストのバイオリン奏者、デイヴ・アーバスの流麗な演奏も相まって、ジプシー音楽風というか、異国趣味なムードを醸し出している。
フーと言えば、ベースのジョン・エントウィッスルが各種管楽器をこなすなど、なかなか手先が器用なバンドであることが知られているが、本作ではピート・タウンゼントの多芸ぶりが全面にフィーチャーされている。
ピアノ、オルガンだけでなく、まだまだ普及途上のアープ・シンセサイザー、EM3シンセサイザーをいち早く導入して使いこなしている。さすがである。
続く「バーゲン」はアコースティック・ギターのサウンドから始まる、ベースが身体を揺さぶるような重厚なハード・ロック。ここでもシンセサイザーが効果的に使われている。
「ラヴ・エイント・フォー・キーピング」は、これまたアコギをフィーチャーした、いなたい雰囲気のカントリー・ロック。
どことなく、当時台頭して来たアメリカのサザンロックに通じるものがある。要するに、アメリカ人好みの音なんだな。
「マイ・ワイフ」はエントウィッスルの作品で、彼がリード・ボーカルも取っている。線の太い歌声が印象的だ。
エントウィッスルはほぼ同時期に自らの初のソロ・アルバム「衝撃!!」もレコーディングしていたくらいで、フーで最も静かな男、寡黙な男と呼ばれていた彼も、創作意欲は実はバンド一旺盛だったのかもしれない。
「ソング・イズ・オーヴァー」はピアノをフィーチャーした壮大なバラード・ロック。サウンドの広がりがなんとも見事だ。
「ゲッティング・イン・チューン」はステディなピートがロックンロール。タウンゼントのピアノがカッコよい。
「ゴーイング・モービル」は軽快なカントリー・ロック調のナンバー。タウンゼントのリード・ボーカル。
ハードでヘビーな音だけでなく、こういう「軽み」を感じさせるサウンドもまた、フーの魅力と言えるだろう。
「ビハインド・ブルー・アイズ」はアコギのバッキングで歌われる、メロディ・ラインの美しいバラード・ナンバー。ハーモニーも素晴らしい。
後半はテンポ・チェンジ、ロック・スタイルでビシッとキメてくれる。実に上手い構成だ。
ラストは「無法の世界」。シングルカットされて、日本でもそこそこヒットしたので、覚えているかたも多いだろう。
グリン・ジョンズが関わったこともあるのだろう、どことなくストーンズを意識した曲調のロックンロールであるが、そこにフーならではのハードなテイスト、そしてシンセサイザー・プレイの新味が合わさり、シンフォニックな世界を構築している。
威風堂々とはこういうことか。まことに見事な終幕である。
ストーンズやツェッペリンというビッグネームを向こうに回して互角に勝負できる英国バンドといえば、ザ・フーをおいてない。
ザ・フーの総力戦の成果と言えるこのアルバム、間違いなく彼らの最高傑作と呼べるだろう。