2006年6月10日(土)
#320 V.A.「THE STORY OF THE BLUES」(COLUMBIA/LEGACY C2K 86334)
「ブルースの物語」というタイトル通り、1926年録音のBertha "Chippie" Hill「Pratt City Blues 」に始まり、2001年録音のボブ・ディラン「CRY A WHILE」 に至る、ブルースの歴史をたどる二枚一組のセット。03年リリース。全42曲収録。
この手のコンピは各種出ていて、いろんな編集のしかたのものがあり、どれが決定版というものでもないのだが、この二枚組は、戦前のアコースティック・ブルースにかなり重きを置いている。古いブルースが好きな筆者的には、ツボの一枚なのだ。
トップに64年ガーナ録音、Fra-Fra Tribesmenの「Yarum Praise Songs 」をもってきたのには、意表をつかれる。レコーディング時期は比較的近年だが、ブルースの原初的状態をまだとどめている、その素朴な歌声に新鮮な感動をおぼえた。野外で歌われる労働歌もまた、ブルースの重要なルーツなのだと思う。
おなじみのカントリー・ブルース、フォーク・ブルースの巨人たちの演奏が続く。ミシシッピ・ジョン・ハート、ブラインド・ウィリー・マクテル、チャーリー・パットン、ブラインド・レモン・ジェファースン、レッドベリー、エトセトラ、エトセトラ。単独では音盤がほとんど入手出来ない二線級(といっては失礼だが)のシンガーもいろいろと収録されているのも、聴きどころ。ペグ・レッグ・ハウエルとかバーベキュー・ボブ&ローンチング・チャーリーとかね。
そういった先達たちの、のどかなサウンドは、ブルース=鬱っぽい音楽という世間に流布されたイメージとはだいぶん違うんだよな。
ブルースとは、きわめて多面体的な音楽なんだと、つくづく思う。ときにはフォーク、ときにはジャズ、そして時代が下ってはロックと相互に影響し合い、表現スタイルを徐々に変えつつ、現在に至っている。
でも、そのコアな部分にあるものは、100年経ったいまも、本質的に変わらない。
それは、ブルース=生活に根ざした音楽であり、日々の生活のむき出しの感情こそが、ブルースの表現の核にあるのだということ。
形式的な美しさよりも、人間の心の真実を問うことこそが、ブルースの本質なのだ。
そういう意味で、ボブ・ディランの音楽をブルースに連なるものと考えている本盤の考え方には、大いに共鳴出来る。ディランのあの歌詞、ボーカル・スタイルは、ブルースの存在なしには、おそらく出てこなかっただろう。
まあ、理屈っぽいことを言うはこのへんでやめておこう。ブルースも基本的には芸能、娯楽音楽のひとつだ。しち面倒くさいことなど考えず、そのサウンドに身をゆだねればいいんである。
個人的には、ベッシー・スミス、リリアン・グリン、チッピー・ヒルら女性シンガーの、ジャズィな歌いぶりに惹かれるものがあった。
シカゴ系あたりがお好きな向きにはちょっと物足りないだろうが、たまにはこういうまったりしたオールド・タイミーなブルースもいいもんでっせ。
<独断評価>★★★☆