2001年9月8日(土)
レーナード・スキナード「セカンド・ヘルピング」(MCA)
今日の一枚はもちろん、当HP掲示板常連、HDさんの大推薦盤。
先日の「月刊ネスト第三号」における投稿企画「逝ってしまった名ギタリストたち」特集にて、彼がこのアルバムを上げておられたのがきっかけで、筆者も聴いてみた。
いやぁ~素晴らしい。ここまで完成度の高いアルバムもそうはない。AMGで五つ星が付けられているのもナットク行く出来である。
筆者的にはZEPのセカンドとタメを張るくらいかな。いやマジで。
1974年発表のセカンド・アルバム。レーナード・スキナードの名を一躍高からしめた、いわば彼らの出世作。
プロデューサーは彼らを見出した男、かの「スーパー・セッション」で知られるアル・クーパー。
まずは彼らの代表的ヒット曲、「スウィート・ホーム・アラバマ」からオープニング。
循環コードの繰り返しによる、覚えやすいミディアム・テンポのナンバー。
エド、ゲイリー、ロニーの共作。ギター・ソロはエド。
ビリーのカントリー調のピアノと、女声コーラスが、軽く明るい雰囲気を盛り上げている。
実はこの曲の構成は、スティーヴ・ミラー・バンドの「テイク・ザ・マネー・アンド・ラン」とほとんど同じなのである。
だが、どちらがどちらをパクったというようなものではなく、カントリー・ミュージックの世界ではクリシェ(常套句)的なパターンなのだろう。
筆者はカントリーに関しては、旧FENの「アメリカン・カントリー・カウントダウン」を流してボーッと聴いていた程度のリスナーなので、まるで詳しくなく、きちんとした考証が出来ないのだが。
二曲目の「アイ・ニード・ユー」は一転してマイナー、ミディアム・スローの重ためのサウンド。
同じくエド、ゲイリー、ロニーの作品。この曲ではアレンとゲイリーがツイン・リードを聴かせてくれる。
粘っこく絡み合うふたりのギター・フレーズ。んー、ブルースだね~(某掲示板ふう)。
どことなく、そのブルーズィな重たさが二ール・ヤング&クレイジー・ホース、スティーヴ・ミラー・バンドを想起させるサウンドであります、私見ですが。
ちなみに当時アレンは、トレード・マークのエクスプローラではなく、まだファイヤーバードを弾いておりやした。
次の「ドント・アスク・ミー・ノー・クエスチョンズ」はまたまた雰囲気を変えて、ミディアム・テンポのメジャー・ナンバー。典型的なカントリー調のロックン・ロール。
ゲイリーとロニーの作品。泣きのギター・ソロはゲイリー。エドはスライド・ギター。
ホーン・セクションも三名加わり、サウンドにも一層の厚みと迫力が感じられる。
ピアノとホーン・アレンジはアル・クーパー。気合いの入ったピアノ・プレイといい、ツボをおさえたアレンジといい、さすがはアル・クーパーだ。
続く「ワーキン・フォー・MCA」、これはレコード会社のやりくちをやんわりと皮肉るような歌詞内容が、なかなか面白いナンバー。
レコード会社を批判したり皮肉ったりするナンバーは、他にセックス・ピストルズの「EMI」(かなり過激な内容!)があるが、それは他レーベルへ移籍してからの作品で、現に所属している会社のことを皮肉るのは、ちょっと珍しいかも。
後にサザンオールスターズが、曲調こそまるで違うものの、この曲のコンセプトをそっくり頂戴して、「働けロックバンド(Workin' For TV)」なるナンバーを作ったのは言うまでもない。
ツイン・リードはアレンとゲイリー、これにエドがソロで絡む。
アップ・テンポで快調に飛ばす、実にイカしたハード・ロック・ナンバーだ。
五曲目は「ザ・バラード・オブ・カーティス・ロウ」。
これは、HDさんも特にお気に入りのナンバーである。
タイトル通りの、カントリー・バラードふうの曲調。アコースティックなナンバーでも、彼らは実に達者な演奏を聴かせてくれる。
エドはスライド・ギター。前半のソロを担当、後半のソロはゲイリー。ピアノ、アコギ、バック・コーラスと、またまたアル・クーパー大活躍。。
そのメロディ・ラインは「ど」が付くほどのカントリーなのだが、歌詞は、周囲から役立たずと指さされる老いたる黒人ブルースマン、カーティス・ロウの歌いぶり、そして生き方にひかれる少年の心情を歌ったもの。
これは作曲者である、アレンとロニーの、少年時代がそのまま投影されていると見てよいだろう。
生まれ故郷のフロリダで、白人社会に属しながらも、黒人たちの歌うブルースに強くひかれていく少年たち。
これがレーナード・スキナードの原点だといえそうだ。
続く「スワンプ・ミュージック」は、そのタイトルがまんま示しているように、南部スワンプ・ロックの典型のような曲だ。
エドとロニーの作品。レイド・バックしたリズム。それに切り込む、エドのアグレッシヴなカントリー・スタイルのギター。
ストラトの音色も、ブルース・フレーバーを含んだフレーズも実にカッコよろしい。
七曲目の「ザ・ニードル・アンド・ザ・スプーン」はアレンとロニーの作。循環コードを用いたマイナー・チューン。
これまた、カントリーのクリシェかもしれない。
このアルバム唯一、アレンのギター・ソロが聴けるナンバーでもある。ワウを使ったブルーズィなプレイがなかなかイカしている。
ラストの「コール・ミー・ザ・ブリーズ」は唯一のカバー。エリック・クラプトンほか多くのシンガーにカバーされているアーティスト、J・J・ケールの作品。
ケールはこのページでも以前にベスト盤を取上げたことのあるアーティストだが、この曲はそのアルバムでもトップに収録されているので、聴きくらべてみると面白い。
筆者が聴いてみた印象では、レーナード・スキナード版のパワフルでメリハリのあるサウンドに比べて、ケール版はより枯れてレイド・バックしたものという感じだ。それぞれに良さはあるといえそう。
ギター・ソロはゲイリー。もう、ロックン・ロール大会!って感じのノリノリ・フレーズ連発である。
また、この曲でも三名のホーンが加わって、にぎやかなアレンジだ。ロックン・ロール、カントリー、ブルース、それぞれの音楽のテイストが渾然一体となっている。
ヴォーカルのロニーの声の張り、バックの息の合った演奏、的確なアレンジ、いずれをとっても、このアルバム中のベスト・トラックと言えるかも知れない。
もちろん、それ以外のどの曲をとってみても、メロディ、サウンドともにハズれなし、きわめて高水準な出来ばえである。
こうやって聴いて来ると、レーナード・スキナードの魅力、というか本質が次第に見えてきたように思う。
そのベースにあるものはやはり、アメリカの白人たちには最も親しまれてきた「カントリー・ミュージック」。
これを縦糸とし、ブルースに代表される黒人音楽を横糸として織り成されているのが、レーナード・スキナードの音楽、そういえそうである。
カントリー・ロックのバンドの多くは、軸足をカントリー側に置いているものだが、彼らの場合はカントリー、ブラック・ミュージックの両方にどっしりと足を置いていて、けっして「白人専用ロック」という感じではない。
いわゆる12小節形式のブルースこそ少ないが、歌唱やギターのフレーズなどの隠し味として、ブラックなものが必ず見え隠れするのである。
いわば、人種、肌の色を超えた「オール・アメリカン・ミュージック」。
ロニーの安定したヴォーカル、一糸乱れぬアンサンブル、それぞれの個性を発揮したギター・ソロ。そして圧倒的な迫力のギター・ハーモニー。
こういったバンドとしての実力もさることながら、特筆すべきはソング・ライティングの豊かな才能を持ったメンバーぞろいであったことだろう。全編、ほんとに、名曲の宝庫なんである。
そのまま、順調に活動出来ていれば、アメリカ、いや世界のナンバー・ワン・バンドとなることも不可能ではなかったと思う。
残念なことこの上ない。
ロニーら3人の飛行機事故死、アレンの病死、そして最近のレオンの死により、オリジナル・メンバー7名のうち、既に5名が他界してしまったレーナード・スキナード。
あまりに不運なグループではあったが、この「セカンド・ヘルピング」という名盤の存在により、そのすぐれた音楽はいつまでも語り続けられるに違いない。