2005年4月3日(日)
#266 沢田研二「STRIPPER」(ポリドール 28MX1040)
沢田研二、81年リリースのアルバム。加瀬邦彦ほかによるプロデュース。
わが国の文化の悪い点のひとつに、「(過去、偉大であった存在を)あたかも無かったもののように扱う」みたいなところがある。
80年代前半において、日本で最も魅力的で、ゴージャスで、かつ実力あるシンガーといえば、矢沢永吉でもなく、井上陽水でもなく、松山千春でもなく、ましてや世良公則や大友康平や玉置浩二や藤井郁弥や吉川晃司などであろうはずもなく、間違いなく沢田研二であった。「決め付け」のそしりを恐れずにあえて言ってしまえば。
つまり、「華」があるという一点において、他の連中などまったく比較にもならなかったってことである。
とにかく、当時の彼はテレビにおいてせよ、ステージにおいてせよ、他のシンガーとは段違いのオーラを放っていた。スター性とか、カリスマとかいった言葉は、彼のためにある。そういう気さえした。
ところが20年以上経った今、誰も彼のことを話題にもしなければ、CDを聴いたりもしなくなっている。オーマイガッ!
これは、どう考えても、ヒドい扱いとしかいいようがない。
そりゃあ現在のジュリーは、ただの人のいい、小太りなオジサンかも知れない。だが、60年代後半から70年代、80年代までの彼はまぎれもなくアジア最大のスターであった。日本にロックを根付かせた、最大の功績者といってもいいだろう。
そういう彼に対して、どの後輩ミュージシャンもリスペクトを表明しない。この国のミュージック・シーンはどうかしているぜ。
ということで、せめて筆者だけでも、偉大なるスター、沢田研二へのオマージュを記しておこうと思う。
このアルバムは全編、ロンドンにてのレコーディング。これは別に初めての試みというわけでなく、タイガース時代からずっとやって来たことだ。
あくまでもアメリカでなく、イギリス。そのへんの「こだわり」がとても嬉しい。
引き連れて行ったバックバンドは、後に「エキゾティックス」と呼ばれることになる面々。
ギターの柴山和彦(元ジュリエット)、同じく安田尚哉、ベースの吉田建、キーボードの西平明、ドラムスの上原豊。
いずれも若くして、経験豊富な実力派ぞろい。
ソングライティングの顔ぶれもなかなかのもの。
作詞が松田聖子などでおなじみの三浦徳子、近田春夫。
作曲は小田裕一郎、かまやつひろし、プロデューサーでもある加瀬邦彦、バンドの吉田建、そしてジュリー自身。
また、当時売り出し中の、佐野元春のオリジナルも一曲、カヴァーしている。
アレンジは全曲、当時佐野元春のバックバンド「ハートランド」にいた伊藤銀次が担当。彼の持ち味である、軽快なポップンロール色を前面に出した仕上がりとなっている。
アルバムはまず、異色のインスト・ジャズ、「オーバチュア」でスタート。
これはジュリーともゆかりの深いベテラン作曲家、宮川泰のペンによるもの。
ストリップティーズの定番BGM「THE STRIPPER」をほうふつとさせる、オールドタイミーな仕上がりが泣かせます。
続く「ストリッパー」はもちろん、ジュリーの大ヒット曲。彼自身の作曲によるもの。
トレモロもビンビン。いかにもギター・バンドなサウンド。まさにシビれます。
「BYE BYE HANDY LOVE」は佐野元春提供のナンバー。オリジナルもカッコいいのだが、ジュリー版も決して負けてない。ゲストとして、英国のパブロック・バンド「ロックパイル」のメンバー、ビリー・ブレムナーがギター・ソロを弾いているが、これが最高。
音色といい、スピーディな乗りといい、極上のロカビリー・ギターを聴かせてくれる。
「そばにいたい」はロッカバラード調。小田裕一郎の作品。B面の「渚のラブレター」にも一脈通じるものがある。
「DIRTY WORK」も小田の作品。小粋なロックンロールナンバー。ここで再びブレムナーがソロをとっているのだが、なんともいえずいい。日本人でこういう軽妙なギターを弾けるギタリストがそういるとは思えない。
彼のゲスト起用は、見事に成功したといえよう。
「バイバイジェラシー」は加瀬邦彦の作品。「ワン・ファイン・デイ」「恋はあせらず」とかを連想させるオールディーズ路線。加瀬は沢田との付き合いが長いだけに、その曲はジュリーの伸びやかな声に実にフィットしている。
ブレムナーの、根っから明るい感じのソロも◎。
「想い出のアニー・ローリー」はGS時代からの友人、かまやつひろしの作品。
これまた「カラーに口紅」ふうの、軽快なポップ・ロック。体が思わず動き出しそうなグルーヴだ。
ジュリーの声って、独特のものがあって、太いわりに重くはない。基本的に突き抜けた明るさがある。どんな悲しい曲、マイナーの曲を歌っても、沈んだ調子にはならない。
これぞまさに、トップシンガーとしての証明だと思う。
B面トップは「FOXY FOXX」。近田春夫/吉田建の作品。アルバム中ではちょっと異色の、ソウル色の強いナンバー。
ソウルとはいえ、どちらかといえばブルーアイド系のポップな仕上がりだ。
「テーブル4の女」は加瀬邦彦の作品。ちょっとパンクの入ったラフなロックンロール。
ジュリーのお家芸、マイナーでのせつない泣き節をしっかりと盛り込んであるあたり、加瀬サン、いい仕事してますな。
「渚のラブレター」はシングル・ヒット曲。ジュリー自身の作曲によるロッカバラード。
ジュリーは以前から作曲にも力を入れていて、自作曲をコンスタントに送り出して来たが、ここに来てその才能が全面的に開花した、そういう感じだ。
「テレフォン」は加瀬の作品。マイナーのメロディが魅力的なロック歌謡といったところか。
あくまでも日本語の歌詞をベースとした、ジャパニーズ・ロック。洋物ロックとは似て非なるものだが、筆者はこれはこれで好きである。
「テレフォン」からシームレスに続く「シャワー」は、これまたマイナー調の吉田建の作品。アルバム中では一番実験的というか、アヴァンギャルドな匂いのするナンバー。バンドのメンバーも、自分たちの好きなように演奏している。ここはひとつ、音のカオスを楽しむといいだろう。
ラストの「バタフライ・ムーン」は珍しくカリプソ調なナンバー。沢田自身の作曲。陽性のメロディが、ジュリーの華やかな歌声とマッチしている。
B面はいささか散漫な印象があるのだが、これはサウンドの統一感がいまひとつということによるのだろう。一方、A面だけを取ると、ほぼ完璧に近い出来。やはり、要所要所において、ブレムナーの存在は大きい。
ロカビリー、ロックンロール、パブロック…要するに「ライト(軽い&明るい)」なロックというわけだが、これは沢田研二の歌声をフィーチャーするサウンドとしては大正解。
ジュリーの声と、ハードロック系の音はやはり合わないだろうし、変に先端っぽい音よりは、ポップの王道こそ彼にはふさわしい。
ロックという音楽は、ややもすると汗臭く、泥臭くなるものだが、ジュリーのロックは、そのへんを見事に昇華して、真にグラマラスな世界を作り上げることに成功している。
これは彼が表舞台から去った後、他のどのアーティスト、たとえばB'Zにせよ、桑田佳祐にせよ、桜井和寿にせよ、生み出しえなかったワンダーランドなのだ。
今後彼が、再びこの国のショービズで華やかなスポットを浴びることは、ないのかも知れない。
だが、彼の作り出した音楽は、空前絶後のものであることに変わりないと、筆者は確信している。
<独断評価>★★★★