2024年6月12日(水)
#433 アルバート・キング「As The Years Go Passing By」(Stax)
#433 アルバート・キング「As The Years Go Passing By」(Stax)
アルバート・キング、1967年リリースのアルバム「Born Under A Bad Sign」収録のナンバー。ディアドリック・マローンの作品。ジム・スチュワートによるプロデュース。
米国のブルースマン、アルバート・キングについては「一枚」「一曲」合わせて8回くらいピックアップしているが、筆者にとっては特別の存在なので、まだまだ書き足りない(笑)。そこで、今回もまたしつこく取り上げてみる。
アルバート・キングのキャリアについて再度ふれておくと、1923年ミシシッピ州インディアノーラ生まれ。本名はアルバート・ネルスン。アーカンソー州フォレストシティで幼少期を過ごし、ブルースに馴染み、独学でギターを習得する。
27歳となった50年、同州オセオラのブルースクラブT-99でハウスバンドに入り、プロとしての生活が始まる。数年後同州ゲイリーへ移り、ジミー・リード、ジョン・ブリムらとバンドを組む。当時の彼のパートはドラムスであった。B・B・キングにあやかって、キング姓を名乗るようになり、53年にパロットで初録音。
オセオラに戻り2年過ごした後、ミズーリ州セントルイスへ。当地で人気ミュージシャンとなり、59年にボビンレーベルと契約、61年「Don’t Throw Your Love on Me So Strong」で初ヒット。
その後キング、カントリーレーベルを経て、66年スタックスレーベルと契約して、人気インストバンド、ブッカー・T&MG’Sやメンフィス・ホーンズと共演、ヒット曲を連発する。
アルバム「Born Under A Bad Sign」は、66年3月から67年6月までにレコーディングされたセッションからの抜粋盤。表題曲「Born Under A Bad Sign」をはじめとする何曲ものシングルヒット曲を含んでいる。
本日取り上げた「As The Years Go Passing By」は、先日取り上げたフェントン・ロビンスンのカバー・バージョンである。
ロビンスンは1959年、デュークレーベルでこの曲をレコーディング、シングルリリースしている。作者はディアドリック・マローンとクレジットされている。これはこれまで何度も書いたように、デュークのオーナー、ドン・ロビーの別名であるが、調べてみるとどうも彼が書いた曲ではないようだ。
本当の作者は、ペパーミント・ハリスというブルースシンガー、ギタリストだ。彼は1925年テキサス生まれで、本名ハリスン・デモトラ・ネルスン。51年に「I Got Loaded」でR&Bチャート1位のヒットを出している。
フェントンはこのスローブルース・ナンバーを「As The Years Go By」のタイトルでリリースしたが、格別のヒットとはならなかった。
この曲を67年6月、約8年ぶりに取り上げて録音したのが、アルバート・キングであった。
レコーディング・メンバーは、ブッカー・T&MG’Sの4人とピアノのアイザック・ヘイズ、そしてトランペットのウェイン・ジャクスンをはじめとするメンフィス・ホーンズである。
アンドリュー・ラブのテナー・サックスのイントロから始まる本バージョンは、オリジナルの、50年代の重たいシカゴ・ブルース・スタイルではなく、スタックスならではの、ソウル&ファンクなアレンジとなっている。まさに60年代後半のサウンドだ。
シャウトをほとんどせずに、スムースそしてスマートに歌い上げるアルバート。そして、愛器フライングVから紡ぎ出されるスクィーズが耳に心地よく響く。
本曲はシングルカットはされなかったが、もしリリースされていれば、「Born Under A Bad Sign」「Crosscut Saw」などと同様に、ヒットチャートのかなり上位まで食い込めたのではないだろうか。
アルバムがリリースされ、このカバー・バージョンが世に出た事で、当然ご本家のフェントン・ロビンスンも大いに刺激を受けたに違いない。
彼は77年にアリゲーターレーベルよりアルバム「I Hear Some Blues Downstairs」をリリースした時に、ラストにこの曲の再録バージョンを収録している。ちなみにクレジットはペパーミント・ハリスに直されている。
こちらはオリジナル・レコーディングより18年の歳月を経ただけあって、円熟味を感じさせるボーカル、そしてフェントン節とも呼べる洗練されたギター・プレイが聴ける。
淡々と歌い奏でるように聴こえても、ズーンと心に沁み入って来る、そんな哀愁に満ちた名演である。さすが、本家の貫禄だ。
67年のアルバート・キングと、77年のフェントン・ロビンスン。この2バージョンは、まことに甲乙つけ難い。
その特徴ある歌い出しのメロディが、エリック・クラプトンの「Layla」のギターフレーズに引用されたことでばかり話題になる本曲だが、楽曲そのものとしても、十分名曲と呼ばれるに値すると筆者は思う。
ふたりのマエストロによる、至高のブルース・バラード。歌とギターの競演を、心ゆくまで楽しんでくれ。